泡風呂に入りながら、私は思った。
この泡と一緒に私の中のモヤモヤもぷかぷか浮いて出て行かないかって。
この大きなお風呂を占領する泡が全て私のモヤモヤで果てればきっと、お風呂を出たときにはスッキリするだろうにって。
少し疲れて座った瞳で、目の前の泡に一息吹き掛けた。
浮かぶ気泡。
シャボン玉みたいに上に向かって、やがて下がり始めてタイルにぶつかり弾けるの。
こんな風に、
目に見えて悩みが消えたらいいのに。
「泡ちゃんと睨めっこ?」
「だって、初デートがラブホって」
私の悩みの種が、前をタオルで隠して現れた。
その憎めない笑顔に思わずため息。
「えー、だって2人とも実家暮らしじゃーん!」
「ビジネスホテルでいいじゃん」
「やだやだー、つまんないよ?こっちの方が楽しいよ?ほら泡ちゃんのお風呂だよ?」
「はいはい」
ザボンと入浴して恋人は私と肩を並べる。
必死な説得を受け流して、最近少し気になっていたお腹周りに腕を回してガードを固めた。
幸いにも泡のおかげで素肌も見え辛い。
悩みが本心を隠す。まさにその様だ。
「ジャグジーにも出来るんだよジャグジー!」
来慣れないラブホテルでテンションが高めな恋人を尻目に、私は静かに照明を落とすのだった。