リハビリとして診断メーカーの結果から小説を書きました!
今回はシスちゃんとロゼの話。
診断結果は以下のとおりです。
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エリシア姉弟のお話は
「知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる」で始まり「花瓶にバラが一輪だけ差してあった」で終わります。
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シスト一人称の小説月間と化してますが楽しんでいただけたら嬉しいです。
では追記からどうぞ!
知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。
あたりを見渡すけれど、やはり知らない場所だ。
穏やかな、小さな街。
近くに深い森がある、何の変哲もない街だ。
「どうした、シスト」
そうパートナーに呼びかけられてはっとする。
声の主の方へ視線を向ければ、酷く怪訝そうな顔をした相棒……フィアの姿があって。
「いや……なんか懐かしいな、と思ってさ」
そんな俺の言葉に彼は一層怪訝そうな顔をする。
そして先程俺がしたように、あたりへ視線を投げた。
「……昔来たことあるとかか?」
「いや、それはない」
すぐに否定する。
それはありえない。
だって、今日ここに来たのは、完全に偶然。
街の近くの森に魔獣の群れが住みついて危険だから討伐してほしいという依頼を受けて、フィアと俺が派遣された形だ。
俺たちを選んだのはリーダーだが、特に深い意味も理由もないはずだ。
何かあるなら彼奴は必ず俺たちに言ってくれる。
でも……
何なんだろう、この感覚は。
懐かしい。
そう感じるのは、なぜ?
考えても考えても、答えは出ない。
どれだけ辺りを見渡しても、懐かしいという感覚以外に得るものはなくて。
―― 今は任務をこなすことを優先しなければ。
そう頭を切り替えて、首を振る。
いこう、と促せば、隣で不思議そうな顔をしていたパートナーも表情を引き締めて、頷いた。
***
「シースちゃん!」
ヒョイ、と顔を覗き込まれる。
思わず飛び退きかけるが、すぐにそれが誰なのかを理解して止まる。
そして深々と溜息を吐いて、目の前にいる女……血を分けた姉を睨んだ。
「姉貴、また勝手に城に入ってきたな……?」
「えへへー」
懲りた様子も反省した様子もない姉貴。
いつものことだけどな……
「遊びに来たかったんだもん。
でもちょうどシスちゃんも任務だし退屈だったー」
呑気にそういった彼女は首を傾げる。
無邪気に笑いながら"今日はどこに行ってたの?"と問いかけられて、ふと思いついた俺は、口を開いた。
「あぁ、姉貴は知ってるかな……」
待の名前を挙げると同時。
姉貴が一瞬、淡い桃色の瞳を見開いた気がした。
「?姉貴?」
今の反応の理由がわからず、呼びかける。
姉貴は少し視線を揺るがせた後、ひとつ息を吐いた。
「知ってるよ」
「え、そうだったのか。行ったことあるとか?」
思い出す限り、姉貴が一人でどこかに出掛けた記憶はない。
俺たちの故郷からは少し遠い街だったし、出かけていたとしたら俺も覚えていると思うのだけれど……
そう考えていれば。
「行ったことがある、のとは違うかなあ」
そういって、姉貴は曖昧に微笑んだ。
「何で、そんなこと聞いたの?シスちゃん」
そういって微笑む姉貴。
少し困惑しながら、俺はいう。
「何か、懐かしい気がしてさ。
俺は行ったことも聞いたこともない街だったのに」
その言葉に、姉貴は目を細めた。
そして、ふっと息を吐いて……
「……シスちゃんも、なんとなくは覚えているのかなあ」
「?どういう……」
問おうとして、はっとする。
一つだけ、思い浮かんだ答え。
「……姉貴、俺たちには本当の両親がいるよな」
俺は顔も名前も知らないし覚えていないけれど。
俺たちには、血の繋がった親が存在するのだ。
俺たちは……正確に言えば、俺が原因で親に捨てられた。
俺たちが"親"と呼ぶのは育ての親。
孤児院から俺たちを引き取り、育ててくれた両親だ。
けれどそれとは別の親がいて、そんな親が住む街がある。
俺が知らない両親が存在するように俺が生まれた街が、存在するのだ。
懐かしい、と感じたあの街はもしかして。
「シスちゃんが思ってる通り、だよ」
そういって、姉貴は笑った。
少し泣きそうな顔で、いう。
「ロゼちゃんも、一度も行ってないけど」
そっか、シスちゃんはあの街を守りに行ってたんだね。
そういう姉貴はそっと俺の頭を撫でた。
「どうだった?」
「……綺麗な街だったよ、静かでいいところだったな」
素直な感想だ。
それを告げれば、姉貴は穏やかに目を細めた。
***
なんとなく気まずくてそこからは会話もあまり弾まなかった。
半ば逃げるように風呂に入りに行けば、上がってきたときには姉貴は俺のベッドで寝入っていて。
やれやれ。
そう思いながらも少しだけ、安堵した。
覚えてもいない本当の故郷。
もしかしたら、俺は本当の両親とすれ違ったのかもしれない。
そう思うとなんだか、複雑な気持ちになってしまって。
寂しいというのとは少し違う。
どちらかと言えば、寂しいのは姉貴の方だと分かっているから……何を言えばいいのか、わからなくなってしまった。
明日、もう少し落ち着いたら……姉貴と、話をしたい。
そう思いながら部屋の中のもう一つのベッドに腰かける。
今日はここを借りるぞ、と答えるはずもないかつての相棒に心の中で呼びかけて……
ベッドの脇のテーブルに、目が止まった。
そこには、風呂に入る前にはなかったものがひとつ。
綺麗なガラスの花瓶。
それをみて、思わず表情を緩めてしまう。
姉貴なりの、俺への言葉なのだろう。
そう思いながらそっと、そのバラを指先で撫でる。
花瓶にはバラが一輪だけ差してあった。
―― 懐かしさの正体 ――
(たった一輪の桃色の薔薇の花言葉。
それはたくさんあるけれど)
(これに込められた意味はきっと、感謝。
それで間違ってないと思っていいよな、姉貴)