「さてと……」
テロルはずんすんと広間の中央に進んで行く。
魔力の花が消え元通りになった石畳の上、何かが落ちていた。
「……何、あれ?」
それを見たケトルの脳が理解を拒む。肌が粟立つのを抑えきれない。
「……はずだ……成功したはずだ……私は……」
悪夢のように譫言を繰り返しているのは、千切れた人間の顔の一部だった。
あの男の口元から顎にかけての肉が、ぽつんとそこにあった。
「凄いねー。こんな状態でもまだ生きてるよ、こいつ」
「一回人間以上になったからでしょ。人間が死ぬような苦痛じゃ易々と死ねなくなって、死ぬまでの時間だけ長く引き伸ばされたってわけ。こうなったら辛いわよ」
そんなことを言いながら、テロルは男の残骸の前にしゃがむ。その手には容器があった。ガラス製にも見えるそれの中に男の破片を収納し、丹念に蓋をした。
「オッケー、仕事終了」
「まだだよ。身柄を引き渡すまでが仕事だよ」
「言葉の綾よ!」
などと軽口を叩き合うのを、ケトルは信じられない面持ちで見ていた。