華やかな音楽が響く、会場。
煌びやかな明かりが降り注ぎ、賑やかな話し声が響く。
美味しそうな料理が並び、飲み物の入ったグラスが大量に並ぶ……宴会の、会場。
今日は、此処……ディアロ城でパーティが開かれていた。
季節の移り変わりには、こうしてパーティが開かれる。
これからの任務をこなすための意欲を高めるためのパーティだった。
そんな会場を回りながら、灰茶色の髪の男性……コンティは小さく息を吐き出した。
「なんというか……騎士ってこんなものでしたっけ」
思わずそう呟く。
というのも、今のパーティ会場はまさにどんちゃん騒ぎという奴だった。
皆各々に好きな食べ物を食べ、好きなものを飲んでいる。
栄養管理を職とするコンティからしてみれば、この状況は正直、歓迎出来たことではなかった。
……まぁ、こういう機会だ。
別に食事を好き勝手に取るところまでは、妥協しよう。
好きなものを食べて好きな相手と談笑するというのも、体には決して悪いことばかりではない。
しかし、だ。
「何してるんすかぁ、えっとぉ……コンティさん、でしたっけ?」
へらり、と笑った赤髪の少年が近づいてきた。
鮮やかな赤髪の少年……アネット。
彼は日に焼けた頬を赤く染めながら、笑っている。
そんな彼を見て小さく溜息を吐き出して、コンティは眉を寄せる。
そして少し険しい表情を浮かべて、言った。
「アネットさん、でしたか。
貴方は、一体何を飲んでいるんですか……」
コンティは呆れ果てた声で彼は言う。
それを聞いて、アネットはにぃっと笑いながら、手にしたグラスを揺らした。
「無論、酒っすよぉ。
今飲んでるのは何だったかなあ、なんかの果実酒だった気がする」
そういいながらアネットは手にしたグラスを傾けた。
ぐいっと中身を……酒を呷る彼を見て、コンティは呆れたように溜息を吐き出した。
そして、彼の手元のグラスをひょいと取り上げる。
「わ、何するんすか」
アネットは彼の行動に眉を寄せる。
返してくださいよぉ、と声を上げるアネット。
コンティはそんな彼を見ながら、言う。
「貴方、幾つですか??」
そう問いかける彼。
アネットは唐突な問いかけにきょとんとした顔をする。
「え?幾つって年っすかぁ?19っすけど」
素直にそう答えるアネットに、コンティは"ですよね"と呟く。
そして彼から取り上げたグラスを揺らしながら、言った。
「貴方は未成年でしょう。
一体どうしてアルコールなんか飲んでるんですか」
険しい表情でそういうコンティ。
栄養管理を担う彼。
しかし彼はそれだけではなくて、アルコール摂取や喫煙に関しても、かなり厳しかった。
未成年者の飲酒は、許しがたいと思っている。
喫煙に関しては、もってのほかだと思っている。
だからこそ、今アネットが酒を飲んでいたのを見咎めたのだった。
しかし、そうして説教をしたところで言うことを聞くようなアネットではない。
彼は盛大に眉を寄せながら、言った。
「なんっすかぁ、シケたこと言わないでくださいっスよぉ……
俺は、飲みたくて飲んでるんすから!」
そう声を上げるアネット。
彼は完全に酔いつぶれている様子だ。
それを見て、コンティは更に呆れた顔をする。
「未成年飲酒の挙句に泥酔とは……
まったく、見ていられませんよ」
そういいながら、コンティは彼から取り上げたグラスを近くのテーブルに置いた。
そして"あー、俺のグラスー"と拗ねた顔をするアネットを見て溜息を吐き出すと、コンティは言った。
「ちょっとおとなしくたちなさい」
真面目に聞きなさいな、というコンティ。
アネットは唇を尖らせつつ、気をつけの姿勢をとる。
コンティはそんな彼を見ながら、言った。
「あのですねぇ、未成年が飲酒するのは体に悪いんですよ。
脳の発達が阻害されますし、冷静な判断が出来なくなりますし……」
彼はそうくどくどと説教を始める。
体によくない。
脳に悪影響が。
そもそもそれだけの量を飲むのは流石に成人でも……云々。
ただ、そんな説教でへこたれるアネットではない。
唇を尖らせたままその話を聞いているやら聞いていないやら、な表情だ。
「んぅう、はいはい、わかったっすよぉ」
「一体何がわかったというんですか……
まったく聞いていないって顔ですよ、アネットさん」
真面目に聞きなさいと言っているのに。
コンティは呆れ果てた表情だ。
と、その時。
「おやおや、案の定説教を食らっていましたか」
おかしそうに笑いながらそういう声が聞こえた。
コンティもアネットも顔を上げる。
そこに立っていたのは、長い緑髪の男性。
一緒に、赤紫の髪の青年……ヒムラーもいる。
どうやら、ジェイドの恋人であるメンゲレの元上官と一緒に話をしていたようだった。
「此処のところ体調不良で僕たちのところに来る騎士が減っていて助かっていますよ、コンティ」
そういって微笑むジェイド。
彼の言葉にコンティは軽く会釈を返す。
「ありがとうございます。
そういっていただけると、私としてもやりがいがありますよ」
「ふふ、本当にありがたいですよ。
これからの季節、体調を崩す騎士が多いですからね」
そういって笑う、ジェイドに、コンティは"寒くなってきましたからね"と返す。
勿論、そういった状況もよく読んだ上で、彼は騎士たちの栄養管理を取り行っていた。
ジェイドはそのことをよく知っていて、ついでに言うなら感謝もしていた。
前々から騎士たちの栄養管理は必要だと思っていたから。
「で……アネットさんは一体何を怒られているんです?」
そういって首を傾げたのはジェイドの隣にいたヒムラー。
アネットは彼の言葉に唇を尖らせたまま、言った。
「酒飲んだら駄目って言われたんすよ」
いつも飲んでるのに、と呟くアネット。
それを聞いて、ヒムラーは何ですって、といわんばかりに目を三角にしながら言った。
「何言ってるんですか!アネットさん未成年じゃないですかぁ!」
そう怒り出すヒムラー。
あぁ二度目の説教だ、とアネットは眉を寄せる。
「わかってるっスよぉ……
でも俺前から飲んでるし、全然平気なのに」
「大丈夫に見えないですよぉ!
何処からどう見たって大丈夫じゃないでしょうアネットさん完全に酔ってるじゃないですか!」
そう声を上げるヒムラー。
あぁこれはある意味コンティより強敵だ。
そう思いながら、ジェイドは苦笑した。
「アネット、飲み過ぎなのは事実ですよ。
貴方はあまり強くないんですから潰れる前にやめときなさい」
そういって、ジェイドは笑う。
彼の言葉にアネットはむぅううう、とむくれた顔をした。
「わかってるってぇ……
でもほら、コンティさんも飲みましょ!折角の宴会なんすから!」
そう言うと同時に、アネットは近くを通りかかったメイドが持っていたトレーから酒のはいったグラスを取った。
そしてそれをコンティに差し出す。
「ほら、折角の宴会なんすからあ!」
「え、いや、私は……」
お酒は好かないんですけど、といいながらそれを断ろうとするコンティ。
しかしアネットはそれにぐいぐいとグラスを勧めている。
「こんな時には飲まないと駄目っすよぉ!
ほら、ほらぁ!」
「いや、だからぁ……」
助けてください、といわんばかりの視線を送ってくるコンティ。
そんな彼を見て、ジェイドは小さく笑ったのだった。
―― Party is… ――
(賑やかな、パーティ。
その中では飲んで食って騒いで、が良いんだろう?)
(そうはいったって節度は大切でしょう。
そもそも貴方はまだお酒を飲んでいい年齢ではないでしょうに…)