「好きだ…十四郎…好き」
二人きりになると銀時はよくこういう台詞を口にする。
そりゃ想い人に抱きしめられて熱を帯びた声で好きだ…なんて耳元で囁かれたら、正直嬉しくないはずがない。それに俺にだってそういう気持ちがない訳じゃない。
けど、自分の感情を口にするのはどうにも苦手だ。こんな時どんな反応をすればいいのかも未だにわからない。
照れ隠しの意味もあって
「お前よくそういう事恥ずかしげもなく言えるよな」
と言った俺に、銀時は思いの外真面目に話だした。
「俺は思ったことを口にしてるだけだよ。…あのさぁ、お前は縁起でもねぇって言うかもしんねぇけど、自分の大切な人がずっと長生きしてくれるとは限らないんだぜ。
いつ何があるかわかんねぇだろ、俺もお前も。
だから恥ずかしいなんて言ってねぇで、その時の自分の気持ちに正直になることにしたんだ。
…俺はもう、後悔したくねぇんだよ」
あの頃、一番大切だった人に伝えたかった想い、届けられなかった言葉。
それは普段意識することはないけれど、微かな痛みとともに俺の心の中に今も確かに存在している。
こいつも俺と同じなんだろうか…
銀時の言葉は土方の胸にずしりと重みを持って響いた。
――それから数日が過ぎた12月24日、クリスマスイブ。
だが真選組にクリスマスなんて関係ない。街に人が増えればそれだけ厄介事も増える訳で、今日も遅くまで仕事だ。
何時に終わるか分からないから銀時と逢う約束はしていない。
俺が仕事で逢えないのはいつもの事だし、「仕方ねぇな」とは言ってたが、あいつは案外イベント好きだから内心残念がっているのがわかるだけに悪いなと思う。
いつもより賑やかな通りを見廻りながら、そんな事を考えていたからだろうか。
手を繋ぎ楽しげに歩く恋人達を見れば自分の相手を思い浮かべ、ケーキ屋の前を通れば、あいつもうケーキ食ったのかなと人並み外れた甘味バカのことを思い出す。
一日中そんな調子で何をしていても銀時の事が頭をよぎる始末だ。
(一番残念なのは俺じゃねーか…)
土方は独りごちた。
そして夜間の巡回を終えた後も屯所に戻らず、万事屋のすぐ近くまで来てしまった。
もしいなかったら帰ればいい。そう思っていると新八の家で行われたパーティーから帰ってきた銀時と出くわした。
「あれっ土方?仕事終ったのか?今日は駄目だって言ってたのに…あっ、アレか、せっかくのクリスマスなんだし、どーしても銀さんに逢いたくなってきちゃった、とか?」
銀時の軽口にいつもなら確実に
『そんな訳あるかァ!近くで仕事だったから通りかかっただけだ!』
などと返すところだ。
だが今日は少しぐらい素直になってみてもいいかなと思ってしまった。
「…そうだよ、なんか…すげぇお前の顔見たくなったから…仕事終わりでそのまま来たんだ」
「…オイオイ、どうなってんだ?今日はやけに素直じゃん」
「わ、悪ィかよ」
「いやいや嬉しいけどね!ま、そのわりにうつむいちゃって全然こっち見てくんねーけど」
「うるせー!」
…クソ!どんな顔したらいいのかわかんねーんだよ!
「あ、もしかしてこないだの話気にしてんの?」
「えっ、あっ…いや…」
「そっか。でもお前はそのままでいいんだよ?素直な土方くんもかわいいけど、俺はいつもの意地っ張りな土方くんも大好きだからさ」
ほら、またこんなことをサラっと言ってのけるだろ。ますます顔上げられなくなっちまうじゃねーか…
「なあ、こっち見てくれよ」
熱を持った頬を銀時の冷えた手に挟まれ上を向かされた。
「やっと目が合った。俺の顔見たかったんだろ。でも、見るだけでいいの?」
「んな訳ねーだろ」
逢えないときにはただ逢いたさばかりが募るのに
今は目の前の愛しい人に触れたくて触れてほしくて…
同じ想いの二人はどちらからともなく自然に唇を重ねていた。
「お前ほっぺた熱いのに唇は冷てぇな」
「てめーもだろ」
冷たかった唇が互いの熱で溶されてゆく。
「…好きだよ」
今まで触れ合っていた唇から紡がれたその言葉はもう何度も聴いているのに、その度に俺の鼓動はドクンと大きく跳ね上がる。
「………俺も…」
これが今の自分には精一杯だけど。俺の想いの何十分の一かでも伝わっただろうか。
「…サンタクロースってほんとにいるのかもな」
と銀時が言った。
「何ガキみてーなこと言ってんだ」
そう応えた次の瞬間、銀時の腕の中に閉じ込められた。
「だってほら、一番ほしかったプレゼント貰ったぜ」
「…そうだな。ほんとにいるかもな。俺もちゃんと貰った」
そう言って銀時の背中に腕を回しぎゅっと力を込めて抱きしめ返した。
この温もり以上にほしいもんなんてねぇんだから…
end.
***************
えーっと、まず今頃クリスマスネタとかすいません!!
完全度はともかくやっと出来ました…(^_^;
あとイチャついてますが思いきり路上ですね…(苦)