ある日の本部。司令の宇崎が御堂に忠告してる。
「和希。晴斗はまだ不慣れだから、お手柔らかに頼むぞ〜。晴斗をいじめるなよ〜」
「へいへい」

御堂は支部の小田原司令によって約3週間しごかれ…いや、鍛えられようやく本部のある東京へと戻ってきた。


この「御堂和希」という隊員、鼎と関わりが深い先輩でありながらも分隊長クラス。


…だがどこか冷めてる態度とめんどくさがり屋なせいか、だるそうな姿がよく散見されている。
戦闘スタイルもかなり独特で制服を着崩してる上に、戦闘へ行く時はだいたいTシャツに戦闘用の指貫グローブ、愛用のカスタム銃(対怪人用ではない)にサバイバルナイフ(対怪人用ではない)という、軽装。

ゼルフェノア隊員の中にはプロテクターを着けている人もちらほらいるが、鼎・彩音・時任や御堂達は動きにくいという理由でプロテクターはしていない。


宇崎はにっこりと笑った。

「じゃあそんなわけでよろしくな♪」

宇崎は御堂相手になると口調がさらにふざける。話しやすいのだろうか。
御堂はかったるそうに司令室を出た。


御堂はノロノロと通路を歩きながら思った。鼎のやつ、暁とうまくいってるっぽいけど。…てか、「暁晴斗」って…どんな奴なんだ?


ゼルフェノア本部・トレーニングルーム。晴斗はそこで自分なりに鍛えていた。
こないだのあんなもん見せられたら(暴走怪人の件)、鍛えるしかねぇじゃねぇかよ!

御堂はよくトレーニングルームに来る。そこでひたすら鍛えている高校生を発見。見た感じ、どこにでもいそうな高校生。


…こいつが「暁晴斗」か?


御堂は無言でトレーニングルームへ入り、いきなりサンドバッグへパンチを繰り出してる。しかも素手。
晴斗はその気迫に思わず動きを止めた。

御堂は視線を感じ、パンチを止めて晴斗を見た。そして一言。
「お前が暁晴斗っていうのか?」
「そ、そうだけど…」

な、なんだこの人。なんか鼎さんとは違う圧がある…。鼎さんが言ってた「御堂」って、この人か?


「俺は『御堂和希』っていうんだ。暁晴斗、お前…想像以上にガキじゃねぇか」


いきなり見下された。

晴斗は地味にショックを受ける。そりゃあ大多数の隊員からしたら俺はガキだけどさーっ!そこは否定しないけど…。
鼎さん経由で、御堂さんはナチュラルに口が悪いとは聞いてたが…初対面でいきなりそれ!?


この組織、癖の強い人だらけだ…。室長からして癖が強い。
あんなふざけたちゃらんぽらんが司令とか…。しかも研究者上がりという経歴のせいか、余計に変人に見える…。


晴斗はまだ知らなかった。

支部の小田原司令とこの組織トップの長官もかなり癖が強い面子だということに…。



鼎は晴斗が組織に来て以降、自分に変化が起きていると感じていた。
不安になった鼎は彩音に相談する。部屋はあの質素な部屋。この部屋は滅多に人が来ない。

「鼎、やっぱり気にしていたんだね。そのうち晴斗くんも受け入れてくれると思うから、大丈夫だよ。1人で抱え込まないで」
「…あの事件から12年経っているというのに、犯人の怪人の手がかりが未だにわからないままなのが…」

彩音は鼎に合わせる。
「その件なんだけど、解析班が改めて調べているみたいだよ。今のところはメギドの出現頻度少ないから、ここぞとばかりに調べまくってる」
「あの解析班が?」

鼎の声が少しだけ明るくなった。



ゼルフェノア本部・解析班の部屋。ここには解析班しかいない。解析班は6人。

解析班の制服は戦闘隊員と少しだけ違う。右腕の腕章のようなデザインの色が違うのだ。
戦闘隊員は赤だが、解析班は青。


そんな多数の機器が並ぶ解析班のチーフが朝倉。勝ち気な性格でぐいぐい行くタイプの女性隊員。副チーフは矢神。冴えない眼鏡の男性隊員だ。
この2人と、民間組織から引き抜かれた元凄腕ハッカーの神(じん)をメインにして、解析班は回っている。ちなみに神は若い男性。


朝倉はカタカタとキーボードを打ちながら矢神と話してた。

「12年前の連続放火事件の犯人の怪人の手がかり探せって、室長は何考えているのかしら。都筑家が犠牲になった事件よね…」
「改めて防犯カメラの映像とか確認していますが…いまいちなんだよな〜」
「とにかく解析するっきゃないでしょ。神さん、そっちはどう?」

神はぼそっと呟いた。
「怪しいものはちらほら出てきたが…まだ掴めないね」
「今思ったんだけど、私達警察みたいなことしてる…。警察動けってんだよっ!」

朝倉はちょっとイライラしてた。未解決事件故に風化してるのもあるが…。


なんとなく朝倉と矢神は鼎が気になっていた。
あの事件以降、組織直属の施設に数年間匿われていたのが紀柳院鼎だと聞いている。
彩音はそこで鼎と出会ったという。

彩音さんと鼎さんは、事件について何かしら知っているのではないか…?
特に8件目に発生した、都筑家放火事件について。



晴斗はなぜか御堂とトレーニングしていた。御堂はスパルタなのか、手加減なし。
「そんなんじゃ怪人倒せねぇぞ!これは喧嘩とは違うんだっ!『東雲』はこう使うのが妥当だっつってんだろ!」
「はいぃーっ!」


御堂、どうやら晴斗に対怪人用の鉈・東雲の使い方をレクチャーしている模様。晴斗はなすがままに訓練されていた。

御堂さんは確かに口は悪いが、不器用なだけか?言い方がぶっきらぼうだ…。


「東雲を使いこなせばかなりの戦力になるんだよ。素人が東雲を使ったと聞いたからレクチャーしてやってんだ、感謝しろ。使えてるだけオメーはすげーよ」
「あ…ありがとうございます」
こう言うしかなかった。晴斗、内心びくびくしながらレクチャー中。


鼎さんの先輩なだけあって、どこか似ている気がする…。言い方はどことなく似ているような気が…。
先輩後輩って、似るもんなのか?


「晴斗、ぼーっとすんな!」
「すいませんっ!」

このノリ、運動部かな?御堂さんはバリバリの体育会系な感じがするんだが。



宇崎はこっそりトレーニングルームを覗き見していた。
予想通り、和希は晴斗に東雲の使い方を教えてるな…。東雲は一見するとただの鉈だが、対怪人用なためか叩き切ることに特化している。


御堂は晴斗の東雲の使い方を見かねて教えていた。

「東雲は素人でも扱える数少ない対怪人武器だ。こいつをマスターすればお前は何でも使いこなせるはずだ」


あれ?なんか少し優しくなった…。言い方はあれだけど。



小一時間後。晴斗と御堂、トレーニングルームで休憩中。晴斗は訓練させられ疲れている模様。
ここで晴斗と御堂は自然と話せるようになっていた。


御堂はスポーツドリンクを飲みながら話してる。

「はぁ?晴斗は鼎のことをもっと知りたいって?お前…受け入れられる覚悟があるのかって聞いてんだよ。鼎に関してはデリケートなこともあるからな。あいつは一見冷たいように見えるが、ああ見えて繊細だ…」

受け入れられる覚悟?覚悟…。


「そのうち鼎自ら言うかはわからないが、お前…鼎の仮面の理由を知らないだろ。なんで仮面姿なのか」
「それは地雷だって聞きました」
「鼎はなかなか心を開かないからな〜。でもなぜかお前には開いてた。心の壁は厚いがな」


心の壁…?


晴斗もスポーツドリンクをがばがば飲んでいた。トレーニングルーム付近にも自販機はある。

「とにかく晴斗を鍛えて素人レベルから隊員レベルに上げてやっからな。東雲を徹底的に使いこなせるようにしてやるからな」



本部の一角にあるとある質素な部屋。鼎はあのことを言うかでかなり迷っているらしい。


「晴斗くんが知ったらショックを受けるかもしれないけど、やっぱりカミングアウトするの?」

「晴斗が受け入れる覚悟があるかどうかで変わってくるが…。私は…もう嫌なんだ、あのことを隠し続けるなんて…。仮面の理由もわかってくるだろう。そしたらあいつは…」
「考えすぎだよ。晴斗くんは鼎を助けたし、大丈夫だって。だからといって素顔を見せる必要はないと思う…。無理してまで人前で仮面、外したくないんでしょう?」
「正直…怖いんだ…」

鼎はずっと顔を背けている。僅かに彩音を見た。白い仮面が見えたがどこか寂しげに見える。
鼎は感情を拳に込めることがよくあるらしい。現に鼎は両手を固く握りしめていた。


彩音は鼎を落ち着かせようとする。


「落ち着いて。確かにあれは鼎からしたら壮絶だったけど、ごめん…なんか思い出しちゃって…」

彩音は何かを思い出したらしく、複雑そう。鼎は感情を露にする。
「この事実を聞いてすんなりと受け入れられると思うか!?晴斗はなんとなく察しているかもしれない…。憶測だが、顔の大火傷の跡を見られた…。それ以降、晴斗の様子がよそよそしいのが引っ掛かる…」
「き、気にしすぎだよ…」

彩音のフォローがフォローになってない。なんだか気まずくなってしまった。



晴斗は御堂のもと、東雲を使いこなすべく日々トレーニングの毎日になっていた。御堂は基本的にスパルタだが、時折優しくしてるため飴と鞭方式。

晴斗はだんだんこの対怪人用鉈・東雲をマスターしかけていた。



そして御堂の特訓から約2週間が経過した。





第5話(下)へ続く。