現場は緊迫していた。敵の罠にハメられ、難なく動ける隊員が御堂と晴斗だけになっているのだから。
鼎は火を見たことにより、過去のトラウマが再発し戦意喪失寸前になる。彩音はそんな鼎の側にいることしか出来ない。
「鼎、御堂さんと晴斗くんがやってくれるから…」
「彩音…怖いんだ。今でも火が…」
まだ鼎の声が震えてる。相当怖い思いをしているのがわかる。完全に怯えてしまっていた。
普段は冷淡で冷静な鼎だが、戦意喪失レベルのものが火。これは過去と深く関係している。
彩音は鼎の背中をさすってあげた。
「鼎、よくこの状況で耐えたよね。えらいよ。後は御堂さん達と消火隊に託そうね」
「…うん」
鼎は炎によるトラウマでついに戦意喪失。彩音は鼎をよしよしする。この状況でよく頑張ったねと。
一方の御堂&晴斗。御堂はサバイバルナイフでメギド相手に高度な戦いをしてる。サバイバルナイフは対怪人用ではない。
晴斗もなんとか攻撃するが、御堂の足を引っ張ってしまう。
「晴斗、考えろ!」
「そんなこと言ったってわからないよ!」
「これだからガキはよぉ!」
ナチュラルにまた見下された。晴斗は御堂による特訓を思い出した。
あのスパルタ式の意味をようやくわかった。晴斗は渾身のパンチをお見舞いする。
敵は吹っ飛んだ。御堂は驚いた。室長が晴斗のことを「天然タフ野郎」と揶揄していたが、まんまタフじゃねーかよ!
なんでそんなに頑丈なの、君!?
晴斗もよくわからなかった。まさか素手で怪人をぶん殴れたなんて。
御堂はその隙にナイフと肉弾戦で攻撃を畳み掛ける。
軽装で戦ってるにもかかわらず、ダメージをあまり受けてない。戦闘慣れしてるのもあるが、御堂はストイックな一面もあった。
とにかくラフな格好じゃないと嫌なのだ。正式な場以外では制服を着崩すし、対怪人用の装備が使いにくいからと通常装備を使う。
御堂はローキックを加え、晴斗はパンチで攻撃。いつの間にか連携がとれている。
ほとんど肉弾戦でメギド相手に戦ってる2人はタフなせいか、持久戦に向いていた。
そして御堂はサバイバルナイフで決める。カッコなんてつけてない。そこに怪人がいるから倒す、それだけだ。
やがて消火隊が到着、炎は消された。
鼎はようやく立ち上がることが出来たが戦意喪失してるためか、足取りが重い。
彩音はずっと寄り添っていた。
晴斗は戦意喪失した鼎を見ていられなかった。あんなにも怯えるほどとは何があったのか?
薄々感じていた。鼎さんの仮面の理由と火にかなりのトラウマがあること…結びつきそうな気がしてならない。
その戦闘から数日後。鼎は例の質素な部屋にひとりいた。部屋の鍵はかけてある。
部屋の電気はあえて点けていない。少し薄暗いが、鼎はひとりそっと仮面を外していた。
本部では滅多に仮面を外さないが、この部屋なら外せるのはなんでだろう。
角度の関係で素顔は見えないが、顔の大火傷の跡が見える。
やはり、素顔のままだと目に負荷がかかってしまうな…。私には仮面が必要なのか…。
鼎は再びそっと仮面を着ける。この生活にはとうに慣れたのだが、お洒落の幅が狭いのが難点だ。仮面故に、化粧が出来ないのは致し方ない。
そしてこの部屋を出た。
晴斗は御堂や彩音から鼎が火が苦手だということを改めて聞いた。かなりのトラウマらしく、今でも怯えるほど。
鼎さんが戦意喪失するほどって、一体過去に何があったんだ…。
後で聞いたが泣くほどだったから相当だ。あの時、鼎は仮面の下で泣いていた。
それからまた数日後。鼎さんは音沙汰なし。
俺に言うどころか、制御されたブレードを使いこなす特訓をひとりで淡々としている。
本物のブレードだと身体に負荷がかかってしまうので、ダミーブレードで鼎さんは特訓していた。
毎回思うが鼎さんの背中はどこか寂しげで。
鼎さんに僅かな変化があったのは、それからさらに数日後のことだった。
晴斗にとって衝撃的な事実を鼎本人から知らされることになる。
「受け入れる覚悟はあるのか?」
あの言葉の意味を身をもって、痛感することになるとは…。