晴斗は知らなかったのだが、タートル・メギド戦からわずか2日後に怪人が出現、出動した鼎が怪我をしたと聞く。右腕を負傷していたのだ。


翌日、晴斗は痛々しい鼎の姿を見ることに。普段は手袋を履いてるが右腕には包帯が巻かれている。
鼎は左手で必死に仮面を押さえていた。


宇崎は鼎の様子がおかしいことに気づく。利き手が使えなくて不便そう。
早速鼎の親友の彩音を呼ぶ。
「彩音〜。ちょっと司令室に来てくれないか」


彩音は鼎の様子にすぐさま気づく。左手で必死に仮面を押さえているのもそうだが、後頭部…仮面の紐が緩んでいる。右腕が怪我でうまく使えないため、うまく結べなかったんだ。

「鼎、何も無理して来なくても…。紐緩んでるよ?直してあげるね」
彩音は手慣れた様子で鼎の仮面の紐を結び直す。
宇崎はこんなことを言った。

「鼎の右手が使えるまで、何日か寮に泊まってくれないか?ちょっと面倒見て欲しい。鼎の仮面は身体の一部だ、彩音相手なら大丈夫だろ」
「鼎の部屋には何度か泊まっているので大丈夫です」

鼎もうなずく。


右手が使えないって不便だよなぁ…と晴斗は鼎を見た。あの御堂ですら鼎を心配してる。

「利き手が使えないのに来なくてもいいだろ…」と、ぶっきらぼうだがかなり心配している。仮面が身体の一部の鼎からしたら右手が使えないのは致命的だった。


その日の夕方、彩音が荷物を鼎の部屋に持ってきた。

「ごめんね鼎、しばらくお邪魔するよ」
「いいんだよ、現に不便だから。空き部屋あるからそこに寝てね。右手が使えないと仮面着け外しすらも難しい」

鼎は彩音相手になると少しだけ口調が砕ける。親友同士というのもあるのだろう。かれこれあの出会いから9年来の付き合いだ。

「仮面は私が着けたげるからさ、心配しないでよ。食事の時とか外したい時はいつでも言ってね」
「…ありがとう」



ゼルフェノア本部。本部にはトレーニングルームが完備されてるが、トレーニングルームは1つだけではない。5つくらいある。

御堂がよく使うトレーニングルームは2階にあった。宇崎が晴斗に新武器開発のための武器相性テストをしたのもここ。


そんなトレーニングルームのいくつかにある装置が運搬・設置される。それは長官が開発した、「シミュレーション怪人」装置だった。


「お前ら喜べ!長官が開発したシミュレーション怪人・バーチャル怪人ともいうが、今日から使えるぞ!」

宇崎はテンション高めだが、御堂は冷めた反応。
「ま〜た、蔦沼長官が作ったのかよ…。あの人開発好きだよな〜」
「いいから和希、試しにやってみんさい」
「実験台かよ!?」


御堂は何も知らずに起動。バーチャル怪人装置は強さ設定が出来るらしく、御堂は「中」にした。

バーチャル怪人はメギド戦闘員と同じフォルムだが、体にゼッケンのようなものが付いている。ゼッケンにはゼルフェノアのエンブレム。
ゼルフェノアの偽物怪人ですよーという意味か。


メギド戦闘員を1体だけ出現させた御堂はいきなり振り回される。
「なんだこれ!?うわ!?」

御堂は偽物怪人にジャイアントスイングされる。宇崎はニコニコしながらつけ加えた。


「長官からの伝言だ。バーチャル怪人使う時は『弱』から使えだとさ」
「先に言えよっ!!」

御堂、なんとか偽物怪人と離れるが思ったよりも強い。強さ設定「中」でこれ!?

「ちなみにそのバーチャル怪人は倒さないと消えない仕様になっている。和希、頑張れよ〜」
「なっ!?おいっ!?室長待ちやがれ!」
御堂は偽物怪人に胸ぐら掴まれてる。攻撃しながら宇崎と話してる状態。

「や〜だね〜。このバーチャル怪人で鍛練すれば今後に役立つばすだからさ。じゃんじゃん鍛えなさいな」


御堂はいきなり強さ設定を「中」にしてしまったばっかりに、ボコボコにされかける。
見た目は戦闘員だが、強さ「中」は標準の強さじゃねぇ…!長官、強さがおかしいって!

御堂はトレーニングルームという場所から、銃を使わずに肉弾戦だけで戦ってる。これがなかなかキツい。トレーニングルームは防弾仕様とはいえ、あまり銃を使いたいとは思わないのだ。

「このやろーっ!」


御堂は偽物怪人をがんじがらめにした。プロレス技をかけたのである。かなり効いている様子。
ジャイアントスイングのお返しだ!

長官開発の偽物怪人なだけあって、肉弾戦とプロレス技が多いのは気のせいか?偽物怪人だから武器はないんだな…。


御堂は苦戦しながらも、なんとか偽物メギド戦闘員を倒した。…めちゃくちゃ疲れた。
強さ設定「中」でこれとかおかしいだろ!?



群馬県某町・ゼルフェノア直属研究機関及び複合施設・ゼノク。
この巨大施設はゼルフェノア本部・支部とは違う。怪人による居場所のない被害者支援もしつつ・病院も併設・また怪人被害の後遺症治療も行う。

民間組織でも怪人被害者支援はしているが、ゼノクには及ばない。このゼノクにゼルフェノアのトップである長官がいる。


長官の名は蔦沼栄治。ゼルフェノアを立ち上げた本人であり、組織のトップだが…少しというかかなり変わっている。
世間の長官のイメージをぶっ壊すような変人なのだ。


元々研究者だった蔦沼は宇崎の先輩。
蔦沼は自ら現場に行きたがるようなタイプで、ゼノク研究室長の西澤や長官の秘書兼世話役の南を困らせている。そして時たま西澤に丸投げする。


蔦沼の何が変人かって、彼の両腕…肘から先は義手なのだが自ら戦闘兼用義手を開発したところにある。西澤も協力していたが。
長官の制服は白いのだが、デザインが隊員とは大幅に異なる。義手は戦闘兼用なため、戦いやすいように袖にゆとりがあり五分丈くらいになっている。

彼の義手は黒い。マットで無骨なデザインだがどこか洗練されている。戦闘兼用というのもあり、そのようなデザインになったのだろうか。


蔦沼は宇崎とリモートで話していた。

「シミュレーション怪人の反応はどうかい?宇崎」
「なんとも言えないですよ。強さ設定おかしくないですか?『中』であれって…」
「あれはわざとああしてんだよ。幹部クラスともいずれ戦うんだ。そのための練習さ。鐡の動向が気になるところだが、まぁすぐには動かないでしょうよ」


蔦沼は話題を変えた。

「そういえば例の高校生、暁くんはどうなの?」
「メキメキ成長してますよ。彼、戦闘で成長するタイプみたいなようです」
「彼には期待してるよ〜」

長官、軽いな。いつも通りか…。



彩音が鼎の部屋に泊まり始めて2日目。鼎はまだ右手を庇っているようだった。

「料理は簡単なものでいいよね。左手で食べれるものを作るからさ。スープなら行けるでしょ?」
「ありがとう、彩音」
「いいのいいの、お互い様でしょ。鼎は何もしなくていいからね。怪我の回復が先だよ」


鼎は少し都合悪そうに言った。

「仮面…外して貰えないか…。このままでは食べれない」
「わかった、ちょっと待ってて。鼎、食事の時は本部では仮面着けたままだけど…不便そうだよね…。家では外すんだ」

「目に負荷がかかるから長時間は外せないけどな」


彩音は鼎の仮面をそっと外してあげる。角度のせいか、素顔は見えないがかなり不便そう。

「食事用のマスクがあれば鼎の目の負荷はだいぶ楽になるとは思うけど…そんなのあるかなぁ」
彩音は親身になっている。
「わからないが…あるかもしれない」

そうこうしているうちに料理が出来た模様。
「こんなだけど、食べて。左手行ける?」
彩音は鼎に具だくさんのスープをよそう。主食は鼎が食べやすいようにパンにした。

鼎はなんとか食べれている。彩音はホッとした。良かった、食べれてる…。パンなら行けるよね。
ご飯ものは料理にもよるかなぁ…。麺類もか…。


「何日か本部には行けないけど仕方ないよ。鼎はゆっくり休んでさ」
彩音は思った。親友というか…私、鼎の保護者じゃんか…。



本部・トレーニングルーム。
晴斗もシミュレーション怪人相手に苦戦していた。


晴斗も御堂と同じく強さ設定を「中」にしたらしく、偽物怪人になすがままにされていた。
「うわあああああ!振り回されるーっ!ギャー!」

御堂は冷めたような目で見た。
「晴斗…お前もか…。強さ設定『弱』にしろって…。人のこと言えないけどよ…」


端から見たらギャグのような光景だが、これでもトレーニング中。



異空間。ここには鐡率いるメギドの本拠地がある。

幹部2人は何やら話していた。陰のあるイケメンは釵游(さゆう)・妖艶な女性は杞亜羅(きあら)という、上級メギド。
「鐡様は何を考えているのでしょうか」
「今頃元老院とつるんでいるだろ」

元老院とは鐡率いるメギドを取り仕切る敵組織。鐡は元老院と同等の権力があるため、時折衝突することがある。

「それにしてもあいつはまだ動かないのかしら。元老院から命が出てるのに」
「蒼い炎を使うあいつはまだだろうよ。いつ動くかわからないがな」


実は幹部は3人いる。その3人目が蒼い炎を使う上級メギド。
話から察するに男性幹部。


敵組織の力関係は鐡=元老院>>>幹部(上級メギド)>>>中級メギド>>>戦闘員(下級メギド)になっている。だから幹部は元老院には逆らえない。


釵游と杞亜羅は元老院が蒼い炎の上級メギドを使うことを予想していた。
ゼルフェノアを潰すためなら、12年前のあれを再現する気だ…!





第10話(下)へ続く。