元老院監察官・流葵の一方的な挑戦状を叩きつけられた晴斗。流葵の実力をいきなり見せつけられてピンチに陥ってしまう。

元老院は幹部以上とは聞いてはいたが。


気絶させろと言われても、この人めちゃめちゃ強いんだが…。俺、宙を舞ったぞ…ってまた攻撃来る!?

モノローグを言ってる暇もない。とにかく流葵は矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくる。しかも威力は強いわ、素早いわで実力の差を見せつけられる始末。


晴斗は一気に劣勢になっていた。攻撃する隙もねぇ…。
既にぼろぼろになってる。

まだ5分くらいしか経ってないぞ…。ここで死ねるかよ!!


晴斗はなにがなんでも一撃加えたいと思っていたが、攻撃を受け続けた結果、ぼろ雑巾のような有り様になっている。ダメージは深刻。

これが幹部クラス以上…。


「晴斗、聞こえるか!?私だ、鼎だ。いいか、返事はしなくていい。話だけ聞け。お前の日本刀型ブレード・恒暁には特殊発動があると言ったが…それは攻撃するためのものではない。浄化させるためのものだ」


浄…化…?


「一撃だけでも特殊発動を加えることが出来れば流葵の洗脳は完全には解けなくても、軟化はするらしいんだ。室長の説明なら話、聞かないだろうから私が代理で話したぞ」
「一撃だけでも加えればいいの…?」

晴斗、泣きそう。鼎は優しく言う。

「一発、ぶちかませ。お前なら出来る。気絶させたら上出来だが、思った以上に強いとなると作戦変更だ」
「鼎さん、ありがとう」


なんだろう、鼎さんから勇気を貰った。
その間にも流葵はジリジリと接近している。小型ナイフ片手にして。

「反撃しないのですか?」
めちゃめちゃ挑発してる…。流葵からはピリピリした空気が伝わってきた。監察官でこれなら他の元老院はもっと危ない。

晴斗はふと何かに気づいた。あの仮面…仮面を無理やり外せば油断するのではないか?
しかし、一撃でそれが出来るかも怪しい。残りの体力も危うい。


ここは…やはり鼎さんのアドバイス通り、特殊発動して一撃浴びせるしかないか…。
タイミングを見計らえ…。

晴斗はわざと流葵に攻撃させる。流葵は晴斗をじわじわ追い詰めていく。ギリギリの攻防。
晴斗は立てないまま、なんとか攻撃を交わしていた。


ブレードは手に持っているため、いつでも発動可能。問題はタイミング…。だがまだ早い。
この流葵という監察官、なんなの!?小型ナイフだけで広範囲攻撃など攻撃の幅が広くて、俺の限界値超えそうだ…。



もはや持久戦の様相を呈してきた。何分戦ってるの、俺ら…。

気づいたらあれから20分以上粘ってる…。さすがに流葵も疲労の色が見えてきたように見えるが、顔が見えないので判断が難しい。


晴斗は持久戦に強いが、相手が悪すぎたためか体力が持つか持たないかレベルにまで来ていた。
一発ぶちかますなら今しかない。相手も疲労困憊に見える…。

晴斗は力を振り絞りブレードのトリガーを2回、引いた。
ブレードの刃が青色に発光する。優しい光…。


なんとか立ち上がり、流葵に向かって走り始めた。交わされたら最後、助走をつけ→ジャンプ→一撃切りつけた!

流葵も晴斗に攻撃したため、相討ちみたいになったが2人はほぼ同時に倒れた。


晴斗は体力の限界、流葵は疲労で。流葵は切られた瞬間、気絶した。
特殊発動は気絶させる効果もある。



「晴斗、流葵の様子はどうなんだ?」宇崎から通信が。
「気絶…してると思います。さすがに仮面触りたいとは思いませんから」

そこに鼎が割り込む。
「仮面外す必要性はないぞ。よく見てみろ。呼吸している。気絶してるから安心しろ」
これは流葵と同じ仮面仲間の鼎だからわかる視点。


「…室長、俺勝ったの?」


「保留だが、今回の目的は流葵の洗脳の軟化だからまぁ勝ったことでいいんでない?彼女に関しては色々聞きたいことがあるし、元老院についても知ってる。生かさないとダメな人間だ。洗脳が解けるまではかかるだろうよ」

晴斗は流葵を見た。なんだか可哀想…。
行方不明になって異空間に迷いこんで、元老院に拾われて6年間怪人サイドで過ごした人だ。


彼女はれっきとした被害者だよ…。


晴斗は複雑になっていた。



その後。気絶した流葵は一旦、本部隣接の直属病院に搬送されることになる。
晴斗もダメージを受けたため、手当てで病院へ。

流葵の洗脳はひどく、彼女は後に治療へゼノクへと行くこととなった。怪人被害・後遺症治療に長けてるゼノクなら設備的にも安心なのもある。
時間はかかるが致し方ない。



流葵は本部隣接の病院で目を覚ました時、自分を失っていた。おぼろげに覚えているのは「元老院」という言葉…。

洗脳から完全には解けてないため、仮面は着けたままにしている。


鼎はそんな流葵に親身になっていた。同じ仮面仲間として、流葵を受け入れたのである。


「貴方は一体…?病院の人じゃないですよね…」

「私はゼルフェノア隊員・紀柳院鼎だ。桜井流葵と言ったな。話を聞いておこうと思ってね…。お前は何がなんだかわかっていないのだろ?…なぜ、自分が仮面を着けているのかさえわかっていないはず…」
「気づいたらこんな姿でした。私は何を…」


鼎は言いづらそうに言う。

「桜井流葵。お前は6年前に行方不明になり、異空間へ迷いこんで『元老院』に拾われたんだ。そして6年間、元老院の一員として働いていた…。怪人に手を貸していたんだよ」

「えっ…」
流葵は理解出来てない。


「流葵はずっと洗脳されていた。その仮面を人前で外せないのはそのせいなんだ」
「あ、あの…紀柳院さん。紀柳院さんはなんで仮面を…」

「知りたいのか?後悔するかもしれないが」
「…し、知りたいです…」


鼎は淡々と続ける。
「私も怪人被害に遭ったんだ。それで顔に大火傷を負った。身体も火傷したよ」
「…それって全身火傷じゃ…」
「かろうじて生還したが、生き地獄だよ。仮面生活はお前よりも長いのだからな…」
「なんか…ごめんなさい」
「謝る必要はない。私はあったことを伝えたまでだ」


流葵は気になっていたことを聞く。

「なんで親身になってくれるんですか…?」
「お前にシンパシーを感じたからだよ」
「…『ゼノク』って、怖くない…ですよね…私、不安で…」
流葵の声が震えてる。


「本部に比べたら環境はいいらしいし、ゆっくり治療してくればいい…としか言えない。私もゼノクは少しわからないんだ、すまない…。怪人被害の後遺症治療に長けてるのは確かだから安心しなよ」


いつの間にか鼎と流葵は打ち解けていた。
鼎は病室を出る前に一言、言った。

「流葵のその仮面、人前で外せる日が来るよ」


実は鼎はかなり複雑だった。口ではああ流葵には気を使い、言ったけれど…。
私の仮面は人前では到底外せそうにない…。あんな姿じゃ人前になんて出られないからだ…。


鼎は本部に戻った後、司令室でも無言だった。宇崎は察した。
鼎のやつ、複雑だったろうな…。お前もれっきとした被害者だよ、だから俺達がいるんだよって。


鼎は滅多にペラペラとは話さない。初対面の流葵とはあっさり打ち解けられただけに、彼女が気になるのも無理はないか…。

宇崎も複雑そうに鼎を見ていた。



元老院では流葵が離脱したことにより、2人の会話が活発になる。

「所詮、流葵は人間ですからね〜。洗脳は完璧には行きませんでしたか」
「何を言っておるのだね。代わりを連れてくればいい。異空間の迷い人をな」


異空間の迷い人。元老院は新たな人柱を立てる気なのか!?