敵幹部を倒すべく、日々隊員達は鍛練を重ねたり鼎は火のトラウマ克服を懸命にしているが、ある日、本部のグラウンド側の空きスペースに見慣れないものが設置されていた。

晴斗はそれを見てあれを連想した。SSUKE…?何この鉄パイプとかで出来た謎物体の集合体は!?


本部にはトレーニングルームが5つあるが、シミュレーション怪人装置は3つの部屋に置いてある。
晴斗はトレーニングルームが1つ増えていることに気づく。あれ…トレーニングルーム、こんなところにあったっけ…?

恐る恐るその新しいトレーニングルームの扉を開けてみると、そこにはグラウンド横にあった謎の物体の縮小バージョンが。
「何…これ?トレーニングルームが増えてる…」


本部・休憩室。


御堂もグラウンドにあった謎の物体の集合体と、トレーニングルームが1つ増えていることに気づいていた。

「晴斗も見たのか、トレーニングルームが増えてるの。グラウンドにあった『あれ』は一体なんなんだ…」
「昨日までなかったよね…。6つ目のトレーニングルームになった場所、あそこは広い空き部屋だったはず。いつの間にトレーニングルームになったんだろう」

そこへ時任と桐谷もやってきた。

「ちぃーす!御堂さん、暁くん何の話をしてたんすか」

御堂がすぐさま反応。
「時任は気づいてないのか?グラウンドにあった『あれ』。鉄パイプとかで組まれた謎物体だよ。あといつの間にかトレーニングルームが1つ増えてるって話していたんだよ」
「えっ!?知らなかった…。グラウンドはあんまり行かないから気づかなかった」

「私も気づきませんでしたねぇ」
桐谷は呑気に言ってる。



本部・司令室。
宇崎はニッコニコで晴斗と御堂に話した。


「グラウンドの『あれ』とトレーニングルームが増えたの、気づいたのはお前らだけか。鋭いな」
宇崎はご機嫌なのか、口調がいつもよりも軽い。

「あれはな、まぁ全身を動かして体を鍛えるための装置だよ。見た目はかなりSSUKE寄りにしたが、パルクールにも使えるようにしたのさ。6つ目のトレーニングルームはパルクール用だ」


パルクール?


晴斗はぽかんとしている。御堂は説明した。
「パルクールっていうスポーツがあんだよ。公園でも出来るんだっけか。ちょっと待ってよ…この動画がその『パルクール』ってスポーツだ」

御堂はスマホでパルクール動画を見せる。そこには選手が縦横無尽に壁を飛び越えたり、ジャンプしたりと身軽な動きをしている。

カッコいい…!


「御堂、解説ありがとね。晴斗!第6トレーニングルームとグラウンドのあれはお前用のようなもんだぞ。晴斗は身体能力が高い、低い壁なら飛び越えられるんじゃないかと思い、設置した」
「お、俺用…?」

晴斗は戸惑いを見せている。
「鼎が火の克服しようと頑張ってんのに、晴斗はたるんでるぞ!」
まるで小学生のような言い方だな…。室長…。

「俺だってやってんのに」
「室長、晴斗を攻めるなよ!不毛な争いはやめろってんだよ…。

御堂は少しイライラしてる。宇崎は気を取り直した。
「悪い、誤解だった。とにかく好きなように使っていいからな〜。誰でも使っていいんだよ」



2階にある第2トレーニングルームでは、鼎と彩音が火の克服のために訓練していた。


彩音が心配そうにシミュレーション装置をシチュエーションモードにする。

「鼎、ここずっと毎日のように訓練やってるけど…そろそろ休んだら?どう見ても疲れてるのに…」
「たき火くらいの大きさはなんとか克服出来た…」
「こないだの長官が言ってた通りに段階踏んで行くよ。バーチャルの火を完全に克服出来たら本物の克服に移行するよ」


彩音は設定を「中」にする。火の範囲がたき火よりも少し広がった。偽物なので熱さはない。
「強」にすると熱さも本物さながらに伴う。バーチャルなので怪我はないように出来ているが、見た目はかなりリアル。


鼎は動けなくなってしまう。彩音は声を掛けた。
「鼎、一旦休もう。疲れているのに無理したらダメだってば。今の鼎には休息が必要だよ」

彩音は装置の電源を切った。バーチャルの火が空間から消える。彩音は設定を怪人モードに戻した。



異空間・元老院本拠地。


鳶旺と絲庵は新しい監察官を迎えている。
「朔哉(さくや)、どうだね?監察官になった気分は」

朔哉と呼ばれた男性は、あの監察官候補者のリーダー格の男だった。
監察官に昇格したため、ローブはライトグレーから黒になっている。

「ありがたき幸せにございます」
朔哉は昇格したことでキャラがガラッと変わっていた。上司の前というのもあるが。深々と礼をした。

「では早速任務と行きましょう。飛焔の監視につくのです」
「飛焔ですか?」

絲庵は続ける。
「君の任務は大事なんだ。幹部がきちんとゼルフェノアと戦っているかを見る必要性がある」
「御意」


朔哉は部屋を出た。



元老院・東館。


諜報員の高槻はあることに気づく。この東館にはわかりにくいが出入口がある…。出入口は本館だけじゃなかったのか。

東館は4人だけになってしまった。高槻は伊波と親しくなっていた。
残された監視官候補者はどうなるんだ!?元老院の判断次第では脱出するしかない。

この元老院の牙城を出るのは難しいだろうな。
高槻はゼノクへ連絡する。

『元老院を脱出する。ゲートの解放をお願いしたい』



群馬県某町・ゼノク。蔦沼は高槻の連絡を受理。

「西澤。ゲートを解放するんだ。高槻がいつでも来れるように」
「異空間で何かあったんですかね…」
「高槻は危険を感じたのだろうな。元老院のやり方に」



元老院・東館。


高槻は伊波にこんなことを言っていた。

「元老院は残された僕達をどうするつもりなんだろう。監察官が決まったということは…」
「殺されるかもしれないですね。だってこの館、拷問部屋があるのを見たんです…」



元老院・会議室。長と副官は残された監察官候補者について話している。

「あの4人、どうしますか?」
「監察官が決まった以上、彼らには居場所はない」
「では抹殺ですね。中級メギドを使って」



東館では少しずつ動いていた。残された4人でこの館を脱出しようとしたのだ。


高槻は眼鏡の男と少年も出たがっていることに気づいた。

「君たちも出たいのか?」
高槻の質問に少年は答えた。
「だって前にいた監察官候補者が1人もいないのって、おかしいよ!」
「…変だと思っていました…最初から…」

眼鏡の男もおかしいと感じていたらしい。


高槻は東館の出入口を発見する。棚の後ろに外へと扉が隠されていた。
「棚を動かすぞ、手伝ってくれ」
「うん」

少しずつ棚を動かし、扉の全貌が明らかに。
本館では鳶旺が何かを感じていた。


「今すぐ中級メギドを複数東館に送り込め!複数だ!候補者を逃がすな!!」
絲庵はメギドを出現させ、東館へ行けと命令。

伊波は嫌な予感がした。
「さっきから音が近づいてません?…怖い…」
「追っ手が接近してる!俺達を殺す気だ!!」

高槻は3人を連れ、扉を開けた。外には戦闘員もいる。
4人は四面楚歌となる。怪人を前にした3人はパニックで洗脳が解けかけている。
高槻は肉弾戦で戦闘員と交戦。その隙にまずは少年を館の外へと逃がす。その後に眼鏡の男、最後は伊波と共に館の外へとなんとか脱出成功。

少年は戸惑いながら高槻に聞いた。
「高槻さんって、何者なの!?」
「話は後だ!ゲートが開いてるから全員飛び込め!撒くぞ!」


目の前には異次元に繋がるワームホールが開いていた。4人は一斉に飛び込む。高槻は叫んだ。
「ゲートよ閉じろ!」

追っ手の戦闘員や中級メギドは寸前のところで4人を逃がしてしまう。



―――ゼノク・とある部屋。高槻を始めとする4人は異空間からの脱出に成功した。
少年はここはどこ?と呟いている。高槻が解説した。

「ここはゼルフェノアの施設だよ。ゼノクっていうんだ」


伊波は泣いている。
「戻れたんだね…。私達…」


少年はあの質問をした。
「高槻さんって、だから何者なの?」
「ゼルフェノアの諜報員。スパイさ。元老院を監視しに行ってたんだよ」
「ス、スパイ…!?」
少年は驚いている。

「危険が迫ったから任務は止めたけど、大収穫だよ。敵の本拠地に行くのは楽ではないな」


眼鏡の男と少年は仮面を外し、フードを脱いでいた。眼鏡の男は仮面に縛られて大変だったせいか、解放されている。

高槻も仮面を脱ぐ。だが、伊波だけはなかなか仮面を外せなかった。
伊波は絲庵から「人前以外でも仮面を外すな」と強く言われていたせいもある。


伊波だけ暗示にかけられていた。
「伊波さん、仮面…外さないのか…」
「心では外したいのに、外せない」

絲庵の暗示が効いてるのか?



そこに蔦沼と西澤がやってきた。

「高槻、迷い人を連れて戻ってくるとはねぇ」
「1人は監察官になっているため、全員は無理でした」


蔦沼は伊波を見る。

「そこのお姉さん、かなり強い暗示をかけられているね。このゼノクでは怪人による後遺症治療もしてるから少し…治療しないか?」


「強い暗示……」

「君みたいに元老院で強い暗示、まぁ洗脳とも言うな…をかけられ、人前で仮面を頑なに外さない人もいる。
彼女はだいぶ元に戻ってはいるけどね、仮面だけは難しいからあえて人前では着けたままにしているよ」


「その人って…。前監察官の流葵(るき)さんじゃあ…」





第16話(下)へ続く。