御堂が見たのは蔦沼長官vs鳶旺(えんおう)のハイレベルなバトル。
対怪人兵器の援護を受けつつ、蔦沼はひとり戦闘兼用義手を使い戦う。

その鮮やかな動きは隙がない。蔦沼は矢継ぎ早に義手を展開しては鳶旺に攻撃→素早く攻撃を交わすなどしている。
蔦沼は普段、自由奔放で周りを振り回すような人だが、戦闘になるとむちゃくちゃ強い…!昼行灯すぎるだろよ…!


蔦沼はしれっとゼノク敷地内にある装置を足を使い、起動。対怪人兵器は地面にも潜ませていた。何この徹底ぶり…。
実はゼノク自体、最初から「鳶旺が襲来する」のを想定して作られている。御堂は思わずこのハイレベルなバトルに見とれてしまっていた。



ゼノク・本館。彩音達は端末でライブ映像を見ている。


「長官ヤバいよ…。思っていた以上に強い…。強すぎるよこの人…!」
彩音、ビビってる。

「本部隊員は知らねぇのか?蔦沼長官は戦うとむちゃくちゃつえーんだぜ。隊員いらねぇんじゃねぇかってくらいには、かなり攻撃的だぞ」

そうさらっと説明したのは上総(かずさ)。愛称は「イチ」。
「俺らもびっくりしたのは、あの戦闘兼用義手…長官自身が設計してるところだよ。だから義手が独特なわけ。普通、腕切断されたら弱くなるのに長官は逆に強くなっているからな」


確かに…両腕切断されてる蔦沼長官、なんであんなにも強いのよ!?
いくら義手補正があるにせよ、むちゃくちゃなスペックだ…。


上総はつけ加えた。

「長官は研究肌なおかげで色々と設計・開発しているが、ゼノク自体長官が作っているからね〜。ここは『対メギド迎撃装置』の役割もあるんだよ。だから俺らの知らない場所にも対怪人兵器があったりする。あの場所にあったのは知らなかったな。擬態させるのは上手いからね〜。
ゼノクに『庭園』があるのは、対怪人兵器を設置するためだと知ってる人間は俺ら隊員だけだ」


あの庭園、そういう意味があったの!?擬態させてたってこと!?全然わからない…。



一方。蔦沼vs鳶旺の戦いは一時的に鳶旺が優勢に。鳶旺は黒い稲妻を武器に変えて蔦沼に襲いかかる。
元は稲妻だったもの、形を変化させることが出来る。


鳶旺は蔦沼に一気に距離を詰めた。人間らしからぬ勢いで。鳶旺は怪人なのだが。

「私の力には及ぶまい」
鳶旺は余裕を見せる。

蔦沼はその隙を突き、右腕の義手を刃物展開→一気に切りつけ→さらに左腕の義手を銃撃モードに展開、腕の砲身で至近距離から射撃。
鳶旺はこの攻撃を僅かなスピードで交わす。


2人はほぼ互角だった。これは10年前もほぼ互角となっている。
10年前の蔦沼は両腕を鳶旺に切断され、敗北したと本人は言ってるが→その鳶旺は蔦沼によって仮面を割られ、素顔を見られている。

つまり…引き分け。ダメージは蔦沼の方が大きかったので蔦沼本人は負けたと言ってるが、実のところは拮抗している。


蔦沼は次の手を出した。距離が近いのを利用し、右手のひらから火炎放射をしたのである。それも火力強めで。

蔦沼は横目に晴斗と鼎の姿を確認した。


「暁・紀柳院、なんでここに!?」
「鼎さんが確かめたいことがあるって…」


晴斗は戦闘中の蔦沼と通信。蔦沼は攻撃しつつ、晴斗と話してる。

「確かめたいこと!?紀柳院…鳶旺が気になっているのか?」
通信は鼎に変わる。
「…もしかしたら…あの事件の黒幕は『元老院』が怪しいと見たんです」
「だからといって館内から出るなっ!鳶旺はお前達が敵う相手じゃない!鐡戦を思い出すんだ!」


鳶旺は遠くにいる晴斗と鼎の姿を確認する。

あの仮面の女は…都筑悠真!?やはり生きていたのか…。


鳶旺はターゲットを蔦沼から鼎に変えようとしたが、寸前のところで蔦沼が阻止。
「させないよ」
「…蔦沼…っ!」

鳶旺の顔は仮面で見えないが、相当イライラしているのがわかる。蔦沼は左腕にエネルギーをチャージし始める。

「暁、ちょっとだけ時間稼いでくれ」
「えっ!?」
「いいから。僕の実力はこれだけでは終わらないからね…鳶旺。それまでそこの少年と遊んでな」


鳶旺はまんまと蔦沼の罠にハマってしまう。晴斗はブレードのトリガーを3回、引いた。あの超攻撃的な発動をさせたのだ。ブレードの刃は赤みがかったオレンジ色に染まる。
周囲に激しい衝撃波が巻き起こった。


御堂は我に返る。
俺はずっと見とれていたのか…?ヤバい、早くあのバカどもを連れ戻さねぇと!

「バカ」とは言ってるがこれは彼なりの愛情表現。口が悪いのでこうなってる。



鳶旺は晴斗と遊ぶようにして戦っていた。晴斗は鐡以上の実力者・いや怪人にかなり圧されている。


「君は『都筑悠真』の知り合いだった子か。…可哀想にねぇ」

今なんて言った!?可哀想ってどういう意味だ!?
鳶旺はターゲットをじわじわと鼎に変えようとしていた。晴斗はなんとか気力で攻撃するもほとんど効いてない。鼎もブレードを発動させる。


「都筑悠真、自ら来てくれてこっちは助かるよ」
「その名で呼ぶな」


鼎はかなりの拒絶反応を示している。蔦沼はエネルギーチャージを完了させ、一気に鳶旺に詰め寄った。

「時間稼いでくれて感謝するよ。鳶旺」

蔦沼は左腕に青白い雷撃を纏わせていた。かなりの帯電。そして一気に雷撃を勢いよく放つ。
鳶旺は吹っ飛ばされるが、致命傷ではなく寸前で黒い稲妻を繰り出す。

黒い稲妻というよりは、赤黒い棘のような物体が鳶旺の背中から羽のように出ていた。
その赤黒い棘は広範囲に広がりを見せる。なんとか蔦沼達は交わすが、晴斗と鼎は鳶旺を前にして恐怖が襲ってくる。


御堂は銃を発砲、晴斗と鼎に逃げるように促す。
「早く逃げろ!棘…なのか?さっきの稲妻よりもやべーから早くっ!!」


晴斗と鼎も発動させたブレードで棘を切ろうとしているが、苦戦。
鳶旺はどこか笑っているように見えた。この赤黒い棘、見た目が血管みたいなのである。


蔦沼と御堂は察した。あの棘…何かある。



鼎の戦闘には制限時間がある。約20分あるとはいえ、ブレード発動を使えばリスクは上がる。
晴斗も超攻撃的な発動を使ったことでかなり消耗していた。


マズイ…このままだとやられてしまう。

晴斗は焦りを見せていた。



鼎は戦闘中、鳶旺に本名を言われたことでかなり動揺していた。
なぜ…名を「本名」を知っている!?

晴斗がかなりゼイゼイ言ってる姿が見えた。慣れない超攻撃的な発動のせいで体力を喰ってるんだ。
…私がなんとかしないと…。私が…。



鳶旺は赤黒い棘をさらに活性化させる。

「君たちには失望したよ、ゼルフェノア。蔦沼とは引き分けだな。まぁいい。今回の目的は蔦沼『ではない』のだから」


そう言うと、鳶旺は棘をある方向へ勢いよく伸ばす。


晴斗にその赤黒い棘が向かっていた。

鼎はそのわずか一瞬、事件前の晴斗との思い出が蘇る。なんでだろう、なんで今…あの光景が…。
私が「都筑悠真」だった頃の記憶…。いや、自分の中にし舞い込んでいた記憶だ。


鼎は無意識に体が勝手に動いてしまっていた。
そして――


「鼎…さん?」


晴斗は見上げた。そこには背後から赤黒い棘に刺された鼎の姿が。
体の一部は棘が貫通していたらしく、血が飛び散る。

鼎の顔は仮面で見えないが、声はかなり苦しそうだ。


「鼎さん!?鼎さん!?」


鼎は刺されたショックで一瞬吐血したらしく、仮面と顔の隙間から血が流れるのが見えた。
晴斗はショックを隠しきれない。

鳶旺は棘を一気に引き抜く。さらに鼎は流血し、そして倒れた。
鳶旺はいつの間にか姿を消し、不自然な闇は消え光が戻る。


辺りは騒然とした。目の前で鼎さんが俺を庇って刺された…。嘘だろ!?
晴斗は鼎を見る。どう声を掛けていいのかわからない。


鼎は晴斗に優しく言った。力ない声で。

「お前を守りたかったんだ…。あの時からずっと」


あの…時?


「あの時」って…事件以前のことなんじゃ…。悠真姉ちゃん…。なんで捨て身で動くんだよ!?なんで!?


御堂は冷静に蔦沼達に伝える。

「救急隊呼んだから。鼎は動かすなよ。あの攻撃で貫通して内臓やられている可能性がある」
「御堂…」

鼎は力ない声で呟いた。明らかに不味そうな雰囲気。


やがてゼノク隣接の組織直属病院から救急隊が来た。

戦闘はゼノク敷地内だったため、鼎は速やかに搬送される。



残された蔦沼・晴斗・御堂は茫然としていた。

晴斗はまだショック状態。

「悠真姉ちゃん…なんでだよ…。なんで…」
晴斗は泣きそうになっている。ショックのあまり「鼎さん」呼びではなく、かつての「悠真姉ちゃん」呼び。

「晴斗…今は鼎が助かることを祈るしかねぇ。それにしてもなんであいつはあんな無茶を…」
御堂も鼎の正体を知ってる身なので、晴斗を落ち着かせることしか出来ない。

蔦沼は戒厳令を解いた。


鼎が搬送されてから少しして。鼎は致命傷は免れたが、内臓損傷したためにしばらく安静と言われる。連絡はすぐに来た。


「鼎さん…しばらく安静だって…」
「元老院の長の目的が鼎って、一体なんでなんだ…」

晴斗と御堂、上の空。



この元老院の長による非情な攻撃はゼルフェノア全体に衝撃をもたらした。


彩音は鼎の回復を祈るしかない。一般病棟に移れれば会えるのだが…。しばらくはかかりそうだ。
彼女も気になっていた。なんで鼎は晴斗を捨て身で庇ったのか。

元老院の長は鼎の本名を知っていたことと関係してる?なぜ鳶旺は鼎を狙ったの?
「都筑悠真」が生存していることが元老院にとって都合が悪いらしいことだけはわかった。


でもなんで鼎なの!?