鼎は禹螢により、ひどいダメージを受けていた。なんとか晴斗達に居場所がわかるようによろよろと徒歩で移動するも、流血してるのと激しく殴られ・蹴られたせいで進むペースはゆっくり。


鷹稜(たかかど)まで奪われてしまうとは…。あれは私の相棒なんだ…。
鼎は時々意識が飛びそうになりながらも、市街地へ出た。端末を見る。妨害は消えていた。


鼎は弱々しい声で宇崎に伝える。


「なんとか…生きてる状態だ…。至急、救急隊を…呼んで…欲しい…」
「鼎!?鼎なのか!?救急隊を送るから…待ってろよ!死ぬなよ!」
「……出血がひどい。意識が飛びそうだ…」

「鼎、頑張れよ…。今御堂達が向かってる」
「…あぁ…」

通信が途切れた。宇崎は司令室のモニターが妨害から消えたと知る。これで居場所がわかる。



御堂達は鼎を捜索中。

「室長?通信の妨害なくなったぞ。鼎の居場所が判明したって?…え…ダメージひどいのか…。わかった」
「御堂さん、室長なんて?」
晴斗が何気なく聞いた。

「司令室も妨害受けてたみてーで、ようやく復旧しただとよ。鼎の居場所もわかった。あいつ…かなりダメージ受けたらしい…」

「急ごう!」



都内某所。鼎は時折よろめきながらも、休める場所を見つけた。そこはビルとビルの間のスペース。
そこそこ空間があり、休めそうだ。

鼎は痛みに耐えていた。傷口からは血が流れているため、傷口を押さえながら、慎重に行く。
彼女は限界近かった。誰か来てくれ…。


雨がポツポツ降ってきた。やがて雨は本降りになる。


鼎は雨に濡れ、さらに体力が奪われる。立っていられなくなった。

「早く…来て…」


鼎の意識は途切れる寸前、かろうじて持っている状態。彼女はついに倒れる。
なんとか立ち上がろうとするも、力が入らない。

「死にたくない…」


鼎は雨に濡れながら、禹螢に反撃出来なかったことに悔しさを滲ませる。涙声になっていた。


御堂と晴斗は倒れている鼎の姿を見つける。御堂は鼎を起こし、そっと抱き抱える。

「起きろ!鼎!俺だ!来たぞ!!」
「和希…」

鼎は御堂の腕の中で意識を取り戻すも、予断を許さない状態。御堂はダメージを受け、ぼろぼろになった鼎の姿を見て涙を浮かべてた。


なんてひどい怪我なんだ…。流血してるし、殴られたのか?痣だらけだ。


鼎は弱々しい声で御堂に言った。

「和希、仮面を外してくれないか…」
「鼎、無理して言うな…」
御堂は鼎の希望通りにそっと仮面を外してあげる。空が薄暗く、角度の関係で素顔はほとんど見えないが、口元だけが見えている。口元しか見えないが、大火傷の跡が痛々しい。


「禹螢に能力(ちから)と鷹稜を奪われた…」
「なんだって!?」


鼎は伝えたいことをなんとか伝えると、気絶したのか意識を失ったのか御堂の声が届かなくなる。
「鼎起きろ!起きろよ!!おいっ!!」


御堂は鼎の脈を見た。死んだわけではない、意識が朦朧としてるようだ…。



やがて救急隊が到着、鼎は本部隣接の組織直属病院に搬送された。

御堂は鼎が言った言葉が引っ掛かっていた。
「禹螢に能力と鷹稜を奪われた」。禹螢のやつ…なんであいつのブレードまで奪ったんだ?



鼎は戦闘のダメージで出血がひどいため、輸血が行われている。
病院では緊急なため、鼎の仮面は外されていた。複数の看護師や医師がいるため、鼎の素顔は見えないが呼吸器が付けられているのはわかる。


医師も禹螢のやり方に怒りを覚えていた。

「出血がひどいな…。彼女、よく持ちこたえたな…」
「意識は朦朧としている模様。搬送される直前までは意識があったようです」
「今すぐ司令を呼んできてくれ」


宇崎は医師に呼ばれた。鼎の容態についてだった。

「鼎の怪我の状態はどうなんだ…」
宇崎は深刻そうな表情。
「紀柳院さんは腹部に斬られた跡があります。あと痣からするに、激しく殴られ、蹴られたのではないのかと。相手は上級メギドと見て間違いないでしょう」

「鼎はブレードを奪われたと言ってた。刀傷はあいつのブレードで斬られたんじゃ…。
上級メギドは『禹螢』だ。能力だけならまだしも、なぜ鷹稜まで奪われなくてはならないんだ?」



とある病室。鼎はそこにいるがまだ意識は戻っていない。
病院では鼎の事情も考慮して、顔には包帯が巻かれていた。呼吸器が付けられている口元だけが見える。

「鼎…なんでこんな目に遭わなきゃならないんだよ…」


宇崎は鼎の意識が戻ることを祈るしかなかった。顔に巻かれた包帯が痛々しい。

実際は顔にはダメージを受けていないのだが、顔に大火傷の跡があること・そのダメージで目にもダメージを負っているため、素顔でいるのは危ないと判断したからだ。



「鼎さん、意識戻ってないの?…室長、嘘だよね?」
「晴斗、本当だ。搬送される直前までは意識があったと聞いた。御堂が必死に声をかけたおかげだろうが…」

「あいつ、俺のこと…名前で呼んだんだよ。仮面を外してやった時に。
鼎は優しい目をしてた。あいつは…すごい悔しそうで…。涙声だった」



異空間・元老院。


禹螢は嬉々として鳶旺(えんおう)に報告。
「鳶旺様、紀柳院鼎のあの能力・『相手の攻撃無効化』を手に入れました」

禹螢は淡い光の球体を出現させる。球体は鳶旺の元へ。
「これがその能力(ちから)か」


鳶旺は球体を自らの体内に吸収、こう言い放つ。

「禹螢、お前の出番はもうない」
「なんだと!?」
「禹螢、その女の刀を奪って何がしたいんだ?」

「格好のオモチャじゃないか、ゼルフェノアの武器を触ってみたくてね〜」
「下らぬ」


鳶旺は紀柳院の能力を欲していたのはそういうことだったのか…。



宇崎は病院からある情報を聞く。


「そんなことあり得るのか?鼎の能力は大事なものだったということか」
「そうですね。特異な能力を奪われたと聞いて彼女の身体を調べたら、原因不明の不調が顕著でして」
「絶妙なバランスを保っていたってことか?」

「それが敵に奪われたことにより、均衡が崩れ始めています。このままだと彼女は意識が戻らないかもしれない…。せめて鷹稜という、彼女の相棒的なブレードだけでも奪還出来れば」


鷹稜はただのブレードじゃないのは知っていた。あれは蔦沼長官謹製のもの。
鷹稜は鼎用に作られているため、イレギュラーでもない限り鷹稜は発動はしない。



「鷹稜を奪還しろと!?」

御堂はオーバーリアクション。宇崎は真顔で説明した。


「鼎は能力とブレードを奪われたことで、均衡が崩れ始めているみたいなんだ。ブレードだけでも奪還しないと、鼎の意識は戻らないかもしれない。
あいつのブレードは特殊で鼎をサポートする役目もあったから、ないとヤバいぞ」
「そんなにも大事なものだったのかよ!?…だからあいつ…たまに鷹稜に話しかけていたのか…」

「鷹稜は禹螢が持っているだろう、禹螢からなにがなんでもブレードを奪還する!」



その頃、禹螢はブレードで遊んでいた。本来他人が使うと斬れないブレードだが、禹螢はそのカラクリを見抜き簡単に使いこなしてたのである。

「切れ味いいなぁ。こんな優れものを使っていたなんてな」



そこに突如現れたのは鐡。

「面白そうなオモチャだな、禹螢」
「く、鐡!?なんでここに」

鐡はゼルフェノアと組んでることを知らない禹螢に、こう言った。
「鳶旺様はご機嫌なようだな。何かあったのか?」
「鳶旺様は『相手の攻撃無効化』の能力を手に入れてご機嫌だよ」


あの仮面の女の能力を奪ったのか…。やったのはこいつ(禹螢)だろうけど。

禹螢はニヤニヤしながらブレードの切れ味を確かめてる。鐡は部屋を出た。



搬送されてから約5日、鼎の意識はまだ戻らない。
御堂達は鷹稜奪還の任務を遂行するため、異空間ゲートがあるゼノクに来ていた。


「これが異空間ゲートがある部屋か…。えらい頑丈なんだな」

御堂はぼへーと異空間ゲートのある扉を見た。扉は予想外に大きい。
このゲートの向こうには禹螢達、敵がいる。