翌日。昨夜のこともあり、寝不足気味な鼎といちか。


「ずいぶんとまぁ眠そうだなー」
霧人が2人に声を掛ける。


「あれから全然寝つけなかったっす」
「そのわりにはよく食べるな…」

鼎達4人は食堂で朝食を食べている。寝不足気味のわりにはいちかの食欲は通常通りだった。
鼎はいちかを横目にしながら淡々と器用に食べている。食欲が出ない。


「鼎さん、無理して食べなくてもいいのに…」
「桐谷、気にかけてくれてありがとな」



一方、本部。晴斗と御堂がわちゃわちゃしていた。

「晴斗、鼎達が帰ってくるまで任務に付き合え!」
「御堂さん、全然変わってないよね…。本当は鼎さんのこと、心配なんでしょ?」

御堂、顔が赤くなる。
「うっせーな!」
晴斗は思った。御堂さん、隠しきれてないって…。



一方、ゼノク。鼎は憐鶴(れんかく)からの連絡待ちだが、全然来ない。


…おかしい…。おかしすぎる…。


そんな中、突如ゼノクに張り巡らせている防衛システムが作動。

「きりゅさん!」
「…どうした」
「早くこっち来て!防弾シャッターが次々閉まってるよ!!」

鼎は必死に走るも、彼女の身体はぼろぼろ。思うように走れない。


合流寸前のところで両サイド、防弾シャッターに阻まれてしまう鼎。閉じ込められてしまう。
シャッターの向こう側からいちか達の声が聞こえた。


「きりゅさん!きりゅさん!聞こえる!?」
「聞こえるよ。閉じ込められた…」

霧人の声がした。
「防衛システムは誤作動かもしれない。解除を試みる」
「出来るのか!?」

鼎の声が必死になる。たったひとり、取り残された…。鼎は防弾シャッターをドンドンと叩くがびくともしない。
やがて鼎は堅牢な防弾シャッターを背に、座りこんでしまう。


「きりゅさん…きりゅさんはひとりじゃないよ…」
「いちかに励まされることになるとはな…」

「あれ、きりゅさん泣いてるの?涙声だよ」

「…なんでもない」



ゼノク・司令室。西澤達もこの防衛システム誤作動を解除しようと試みる。


「長官、防衛システムハッキングされてます!」
「解除までにかかるな、こりゃあ…」

「西澤室長取れますか」
霧人から通信。
「渋谷、どうした」
「紀柳院が防弾シャッターに阻まれて閉じ込められた。解除出来ないか!?」

「紀柳院以外は全員無事か!?」
「無事です。紀柳院には時任が必死に声を掛けています。彼女を孤独にしたくありませんからね」
「渋谷。防衛システムはハッキングされている。こっちも必死に解除してるが時間がかかりそうだ…」


「ハッキング!?」

「渋谷も端末から解除を試みてるのか」
「タブレットから何度か挑戦してますが」


司令室では鼎が閉じ込められた場所をモニターで確認。


「長官、この場所…地下と近いんでは?」
「地下か…」
「地下に紀柳院を誘導して、別ルートから地上へ出れませんかね?」


蔦沼、しばしの沈黙。

彼女は応じてくれるだろうか…。今は緊急事態だ…。


その頃の鼎。いちかの掛け声も虚しく、鼎はこれまで以上にない孤独感に苛まれる。


私はこのままここで終わるのだろうか…。


「きりゅさん、今しぶやん達が解除してるから!時間かかるって言ってたから諦めちゃダメだよ!!
それに司令室から連絡あって、防衛システムハッキングされたって…」

「ハッキング…」



司令室から地下にいる憐鶴に蔦沼から連絡が入った。


「憐鶴、緊急事態だ。防衛システムがハッキングされた。
地上では紀柳院が防弾シャッターに阻まれ、閉じ込められた。君しか行ける人間はいない」
「長官、私に彼女を助けろと?」

「解除まで時間がかかるんだよ。紀柳院のこと、聞いているだろ。彼女の身体はぼろぼろで持久戦に向いてない。
体力が持たないかもしれないんだ…。助けて欲しい」

「…わかりました」


憐鶴、動く。



鼎はかれこれ2時間以上閉じ込められていた。防弾シャッターの関係上、空調が意味を成さない。
鼎はひとりだからと仮面を外していた。


このまま同じような状況が続けば体力は持たないかもしれない…。
だから一旦、仮面を外したわけで。空調が意味を成さないから息苦しいのもあった。


鼎は再び仮面を着ける。孤独だ。
いちかは必死に声を掛ける。


「きりゅさんまだ諦めないで!」
「いちか…体力持つか怪しくなってきた…」

「…え?」
「並みの人間より体力がないんだよ。この身体のせいでな…」
「早く助けないと!きりゅさんリタイアしちゃダメ!!しぶやんまだ!?」

「まだだって!!」


防弾シャッターの向こう側では、激しいやり取りが聞こえた。
鼎の体力が持たないかもしれない。憐鶴はあるルートを使い、閉じ込められた場所へと向かう。



そして。


「助けに来ました」
「れ…憐鶴!?どこから出てきた!?」
鼎、突然現れた憐鶴にビビる。

「緊急事態なので、長官からあなたを助けろと言われたのです」


地下には独自のルートがあるのか!?じゃないと来れないだろ…。


「無理しないで下さい。体力…持つのか怪しいのでしょう?
これを飲んで下さい。飲むゼリーです。一時しのぎにはなるでしょう」

憐鶴は素っ気なく渡した。鼎は限界近かったのか、受けとるなり仮面をずらして飲んでいる。


「大丈夫ですか」
「さっきよりはだいぶ良くなったよ」

「では脱出します。こちらへ」
憐鶴はある場所へと誘導する。それは彼女しか知らない独自のルートだった。



司令室の蔦沼からいちか達へ通信が入る。


「憐鶴を向かわせたから、紀柳院は助かるから安心して」
「れ…憐鶴が!?」

「彼女しか知らないルートを使って脱出させてるよ。君たちは心配しなくていいからさ」


「長官、憐鶴って一体何者なんですか!?独自のルートって何!?」
霧人が慌てる。

「それは秘密」


秘密って…。



そんなこんなで憐鶴は、鼎をいちか達がいる場所へと誘導した。
憐鶴は戻ろうとする。

「待って!」
いちかが止めた。
「あの…きりゅさん助けてくれてありがとう」
「今回は緊急事態なので来ただけです」


憐鶴は地下へと戻ってしまった。



それからしばらくして。ハッキングされた、ゼノク防衛システムはようやく解除された。


鼎はいちか達に再会した時、思わずいちかを抱きしめた。彼女は相当不安だったようだ…。

「き、きりゅさん…苦しいよ」
「わ、悪い。独りが嫌だったんだよ…!だから…」

「きりゅさん、ぎゅーしていいよ。仲間でしょ?寂しかったんだね」
「閉じ込められた時、ずっと寂しくて…孤独で…。お前の声がなかったら私は壊れていた…」

「憐鶴さん…本当は悪い人じゃないかもしれないって思ったっす」
「憐鶴はなぜルートを知っていたんだ…。それに明らかに両サイド防弾シャッターで塞がれていた通路からいきなり出てきたのが気になる」



4人はなんとか本部へと帰ることが出来たが、憐鶴の謎が増えた。
防衛システムハッキングの謎もある。

一体何者がゼノクをハッキングしたんだ!?