鼎は退院間近。いちかは鼎の病室に来ていた。

「きりゅさん、今回の戦い…あたし今まで以上に本気なの」
「いちか…どうしたんだ、急に」


鼎は少し困惑してる。


「ヒーローに憧れてこの組織に入ったのに、それらしい活躍してない…」
「十分してるだろうが」


鼎はいちかの頭をぽんぽんする。いちかは小柄ゆえに子供扱いされるのが嫌なのだが、なぜか鼎に対しては気にならない。心を許してる。


「きりゅさん、きりゅさん本当は戦いたいの…?」
「戦いたいよ。こんなこと言ったら和希にとやかく言われそうだけどな」

「きりゅさん…たいちょーと付き合ってるんだよね?どこまで進展したの」
いちか、ナチュラルに恋愛話を持ち込む。しかも小声。馴れ馴れしい。


「恋愛話を持ち込むな」
鼎、若干イラッ。

「キスまでいったの?ねぇ?」
さらに馴れ馴れしくなるいちか。

「余計なお世話だ。…和希は不器用だからな…。私の意識が戻るまで、ずっと手を握っていたのを知った時は嬉しかったけど」


「鼎…お前そうだったのかよ」
話を密かに聞いていた御堂、顔をなんとなく赤くしながら登場。

「たいちょー話盗み聞きしてたのかよ!」
いちか、突っ込む。
「いちか、節操なさすぎだろ。だから恋愛話を持ち込むなって言ってるだろうが…」


「和希、戦いたいなんて言ってすまない」
「気持ちはわかるけどよ、わかっているよな?ブレードをお前が発動させれば死ぬ。俺はお前を失いたくねぇんだよ…。
鼎、憐鶴(れんかく)をどうにかしたいのか?」

「かつての私みたいなんだよ。たったひとりでもがいてる。
あいつは救わなければ…ならない…」
「あー、使命感に駆られてんのね。憐鶴にシンパシーを感じたのか。
鼎にとっての戦いはそれじゃないの?憐鶴を救うことだよ」


復讐に取り憑かれた闇の執行人を救うのが私の戦いか…。
憐鶴は僅かながらに心を開きかけている。そう見えた。


「鼎、退院してもすぐに復帰すんなよ。オーバーワークはダメ、ゼッタイ!!」

御堂は病室を出ていった。


残された鼎といちかはきょとんとしてる。

「和希はツンデレなのか?」
「たいちょー、なんか変っすよ。やっぱりきりゅさんのこと…気にしてるとしか」



本部・屋上。憐鶴はひとり、佇んでいる。そこに御堂が来た。

「おい、憐鶴」
「なんでしょうか。御堂さん」
「お前…ずっとひとりで戦ってきたって本当か?」

「本当ですよ。協力者はいますが、実質戦ってるのは私だけです」
「仲間…いないのか」
「またそれですか。『仲間』。あの少年も言ってましたよ。そんな意識なんてないのに」


あの「少年」…晴斗のことか?


「紀柳院さんはどこか私と似ている気がします」

「そりゃそうだろうよ。鼎のやつ…ゼルフェノアに入った当初はお前みたいな『復讐に取り憑かれた』やつだったからな。
あいつは組織に入ってから少しずつ変わったよ。憐鶴…お前、少しは肩の力抜いたらどうなのよ。鼎はお前のこと、すっごい気にしてた」


気にしてた…。


「憐鶴、俺達と協力しないと絶鬼殲滅なんで無理だろ…。あんなよくわからない強さのやつ…。打開策、ないんだろ。まだ…」
「まだ…ありません」

「今こそ協力すべきだ!表の人間とか裏の人間とか関係ねぇ!
憐鶴…鼎の鷹稜(たかかど)が必要なんだろ?鷹稜とお前の九十九(つくも)、何かあるのか」

「あるからわざわざ出てきたんですよ。地下からね」


相変わらず秘密主義だな、こいつは…。何を考えてるかわからない…。
確実に言えるのは、憐鶴は絶鬼を倒したいことだけ。

なかなか心を開かないやつだ…。難しいし警戒心も強い。



本部・司令室。


「鼎はそろそろ退院出来るのね。わかったよ。
絶鬼の手下に警戒しろ?言われなくてもやるっての…」
宇崎、少し愚痴ってる。

「どうした宇崎」
「北川、鼎の退院のめどがついた。鼎のやつ相変わらず自分の心配より、他人の心配してんぞ…。身体を労れってんだ」
「まあまあいいじゃないか」

「北川はのんきだよな〜」



裂鬼は異空間から人間界を見ている。

「なんで私が禍鬼の尻拭いしないとならんわけ!?
あの野郎、めんどくせーもん残していきやがった。『憐鶴殺せ』って…。あの執行人、厄介なんだよね〜。あー、めんど」


裂鬼のターゲットは憐鶴。絶鬼と裂鬼は鼎が死んだと思い込んでいる。

憐鶴はなんとなく嫌な予感がしていた。絶鬼には女の手下がいたはずだ…。
あの手下、かなり攻撃的な性格だったような…。