前日借りたままになっていた晴斗は、日本刀型ブレードを返しに本部へ。そこで気になっていた仮面の女隊員と顔合わせするのだが。


晴斗はぎこちなかった。相手は仮面姿の女性隊員。正直、どこを見て話したらいいのかさっぱりわからない。

よく「目を見て話しなさい」と言うが、彼女の場合は仮面の目が黒いレンズゆえにどこか目を合わせにくいというか…。


話を切り出したのは鼎だった。
「緊張しているのか?無理して目を合わせなくていい。見苦しい姿ですまないな…。話しづらいだろう。初対面だとよく言われるんだ」

見苦しい姿…あの仮面のことか?


「い、いえそんな…。俺、そんなに緊張してます?」
「ガッチガチだぞ」

ガッチガチ!?いきなりストレートに言ったよ、この人!

晴斗は緊張しながらも鼎にブレードを渡す。鼎は受け取った。
「ブレードを丁寧に保管していたのか。ありがとう」

声が少し優しくなってる…。鼎は早速布をほどき、ブレードを鞘に納めた。
晴斗は思い切って聞いてみた。

「あ…あの、名前を聞きたいんですけど…いいですか?」
「私か?『紀柳院鼎』だ。私も気になっていたんだよ。名前を教えてくれないか?」
「あ…『暁晴斗』です」
「『暁』…そうか…ありがとな」


今の反応は一体?
この人、鼎っていうのか…。話し方は冷淡だけども、どこか優しさはある気がする。やっぱり初めて会った気がしない。顔がわかればいいのに…。


「いきなりこんなこと聞いてすいません。なんで仮面、着けてるんですか…」
「知りたいのか…。止めておけ。お前にはわからない…」


急に冷酷な言い方になった。なんで?


晴斗はモヤモヤしていた。

鼎さんの仮面の理由が気になるところだが、部屋にいきなり眼鏡・白衣の男がノーノックで乱入してきた。

空気読めよ…。


「お取り込み中、すまんな〜。鼎の仮面の理由はそっとしといてくれ。晴斗、お前地雷踏んでるぞ」

なんだこのやけに馴れ馴れしい男は!?


「悪い悪い。自己紹介遅れたわ。俺、宇崎幾馬っていうの。本部司令兼、研究室長」


晴斗は「えぇっ!?」というリアクションを見せる。
こいつが本部司令?なんかすげーふざけてる、ちゃらんぽらんにしか見えないけど…。

イメージした司令とは全然違う…。


「晴斗。この際だから本部見学していくか?もしかしてお前とはまた関わるかもしれないからね」

また関わるかもしれない?


「鼎、さっきのことは忘れて晴斗を案内してくれないか」
「了解した」

なんかさっきから鼎さんの声が少し怖いのだが…。気のせいか?
やっぱり地雷踏んだせい?


鼎は淡々と本部を案内していく。
「ここが司令室だ」

すごい!これが本部中枢なの!?
晴斗は目を輝かせていた。

しばらく2人で館内を見ているうちにだんだん慣れてきたのか、晴斗は鼎に謝った。
「鼎さん、ごめんなさい。地雷踏んだこと…気にしてますよね?」
「お前…まだ気にしていたのか。いずれお前と一緒に任務をこなすかもしれないというのに」


えっ!?どういうわけだ!?何言ってるのかわかんないよ〜。

「室長は晴斗を見込んでいるみたいなんだ。本部にお前をわざわざ呼んだ…来るようにしたのも室長。晴斗、メギドはまたやってくる。力を貸してくれないか」


力を貸す?


「そのうちわかってくるとは思うよ。組織のこと、怪人のこと、隊員のことをな」
「鼎さんのこともそのうちわかる?」
「…知りたいのなら、力を貸すんだな」

力を貸すのはいいけど、どうやって協力しろと!?
なんか鼎さん、声が明るくなったような気がする。心なしか顔も明るく見える。仮面に表情なんてないのに…。



鼎の案内でトレーニングルームへ来た。そこには宇崎が。
「暁晴斗。隊員の素質があるかどうかの体力テストを受けてくれ。なーに簡単なもんだよ」
宇崎は学校でやる体力テストを改造したものを用意していた。晴斗はなぜか芋っぽいジャージに着替えさせられた。

なんでジャージ!?ダサっ!

「文句言うなよ〜。晴斗はダイヤの原石かもしれないんだ。学校でやる体力テストみたいなもんだから、な?」
晴斗は仕方なしに受けることに。次々受けていく中で、宇崎はあることに気づく。

暁晴斗は天然タフ野郎ってとこかな。身体能力も高いが持久力もある…。素質は十分だ。


宇崎はある木刀を晴斗に渡した。
「この木刀で目の前にある人形を思い切って叩き切ってくれ。これはい草で出来たものを木に巻きつけているだけだ」
「これで何がわかるんですか?」
「怪人を倒せるだけの威力があるかどうか。この木刀はただの木刀じゃないんだぞ〜?斬れないけど、すげーもんなのよ。自信作だぞ?」

自慢かいっ!


晴斗は宇崎にイラッとしながらも木刀でダミー人形に斬りかかる。人形は真っ二つに斬れた。

これには鼎も驚きを見せていた。
あの木刀は斬れないはず…!なんなんだ、こいつは…!



体力テストは無事終了。晴斗は芋ジャージから解放されて安心してる。
「ジャージダサすぎだよ、なにこれ…。うちの高校はもっとマシなのに…」

そっちかーい!


鼎は晴斗を隊員用休憩所へと連れて行った。そこには自販機が並んでいる。
晴斗はスポーツドリンクを買った。鼎は缶コーヒー。

晴斗はスポーツドリンクを飲みながら鼎を横目で見た。
仮面をずらしながら器用に飲んでいる…。

「どうした?」
鼎は目線に気づいたらしい。
「いや…器用だなって…」
「色々と事情があるんだよ。私が人前で素顔になれない理由がな」

鼎は缶コーヒーを飲み終えたのか、ずらした仮面を元に戻す。晴斗は一瞬、何か見てはいけないものを見た気がした。


今のは一体?なんか火傷の跡…みたいなものがあった気が…。まさかなー。
それも範囲が広い気がした…。まさか鼎さんの仮面の理由って…。顔の火傷の跡…なんだろうか…?

ほんの数秒だったのでまだわからないが…。


休憩中、晴斗は鼎をなんとなく見ていた。首筋にも火傷の跡らしきものが残っている。
まさかそんなわけ…。あの黒手袋が比較的薄手なのは日常的動作を使いやすくするためなんだろうけど、どうしても気になってしまう…。



俺は「紀柳院鼎」という、仮面の隊員についてますます気になり始めていた…。


そして本部で体力テストの結果と独自の戦闘テスト結果から、隊員の素質があると伝えられてしまう。

どうなるんだ、俺の高校生活。隊員の道は考えてもいなかった。
今のところ怪人はまだ少ないが、鼎さんに「力を貸してくれないか」と言われてしまった以上…なんだか退けない。


紀柳院鼎についてはもう少し、調べる必要がありそうな感じがする…。
仮面にも表情があるんだな…。角度や陰影のせいなんだろうが、鼎さんは自然に見えるんだよ…。