前回までのあらすじ。学校にて成り行きで怪人を倒してしまった暁晴斗は、仮面の女隊員が妙に気になってしまう。隊員撤収後、晴斗は彼女の武器を返し忘れていた―。


晴斗は結局、その日本刀型ブレードを布でぐるぐる巻きにして家に持ち帰るしかなかった。鞘は彼女の元にあるため刀は剥き出し。さすがにヤバいので、仕方なく布でぐるぐる巻きにしたわけで。
晴斗は自室に日本刀のある光景に違和感がかなりあった。違和感しかない。


うっわー、一気に物騒にーっ!
…どうすりゃいいんだよ、これ。今からじゃあ遅いし、明日以降に返しに行くか?一体どこへ?

…ゼルフェノア本部…だよなぁ…。


晴斗は夕飯時、なんとなく昔隊員だった陽一に聞いてみることに。

「晴斗、どうしたんだ?深刻そうな顔して」
「父さん、今から言うこと信じてくれる?」
「言ってみなさい」

晴斗はなんとか今日あったことを伝えた。
「なるほどね。晴斗、じゃあその隊員さんを助けたんだな。ご飯終わってからその刀を持ってきてくれないか?もしかしたら父さんわかるかもしれないし、本部にも連絡しておくよ。返しに行きますーって」

あれ?父さん隊員辞めたはずなのになんで連絡先知ってんの?

「晴斗、今『なんで辞めたのに連絡先知ってんの!?』…と思っただろ。大人には大人の事情があるの。いいから食べなさい。冷めちゃうよ〜」

「…うん」



夕食後。晴斗は自室から例の日本刀型ブレードを持ってきた。布でぐるぐる巻きにした状態で。
陽一はソファーに座り、早速布をほどいてみる。科学的に作られた日本刀型ブレードだが、見た目は日本刀そのもの。

「…晴斗。この刀の持ち主、どういう人だったか覚えてるか?」
「名前はわからないけど、白い仮面を着けた女の人だった…。なんかすごい苦しそうにしてて…。俺、本能的に助けなきゃと思ってたら体が勝手に動いたんだ」


仮面の女性隊員…?

陽一と朱美は心当たりがあったが、まだ晴斗には伏せておくことにした。
晴斗にあのことを言うにはあまりにも早すぎる。時が来るのを待つんだ。


「晴斗、この刀は彼女にとっては大事なものだ。明日は土曜日だろ?返しに行こう。その前に俺が連絡しておくから、明日は晴斗1人で行ってきなさい」
「わかったよ。これ、返しに行ってくる」


陽一は丁寧に日本刀型ブレードを布でぐるぐる巻きにした。陽一はブレードを見て察した。これは宇崎が作ったものだ…。


少しして。陽一は宇崎に直接連絡する。


「…あ、もしもし。暁ですけど。幾馬?今大丈夫か?」
「お前、陽一!なになにいきなり」
電話口から無邪気な声。

「幾馬は相変わらずだなぁ。本当にお前は司令なのか?本当は知ってるんだろ、晴斗が怪人倒した件。それと成り行きで借りた日本刀型ブレードは明日、晴斗本人が本部に返しに行くからな」
「陽一も来てもいいんだよ〜。隊員辞めても臨時隊員として動けるようにしてるじゃんか」
「それは今よりも状況悪化したらの話だろ」


電話口から聞こえる声はふざけてる。本当に相手は司令なのか?晴斗は懐疑的。


なんだかんだで変なやり取りの電話は終わった。

「晴斗、明日OKだとさ。刀の持ち主も気にしているようだし、この際挨拶するんだよ。何かの縁かもしれないからね」
「うん」



ゼルフェノア本部・救護所。鼎はまだベッドの上に横たわっていた。
彩音は鼎を看ている。鼎はなんとか起き上がる。

「鼎、今日はそのまま本部に泊まりなよ。やっぱり戦闘、ちょっと無理しちゃったんだね。身体休ませた方がいいよ」
「あぁ…。それにしてもあの少年…初めて会った気がしない。名前はまだ室長からは聞いてないが…。明日になればわかるか。ブレード返しに来ると聞いたから」

そういえば鼎のブレードは、あの少年が戦闘のどさくさで借りたままになっていたんだっけ。鼎の手元には鞘しかないもんなぁ。



暁家・晴斗の部屋。晴斗はブレードを壁に立て掛ける。どうもあの仮面の隊員がちらついてしまう。


あの時、一言二言しか交わさなかったが、初めて会った感じがどうもしないのだ。前にどこかで会った気がする…。
なんなんだろう、この感じは…。


仮面で顔が見えないのがもどかしい。それにしてもなぜ彼女は仮面姿なんだろう?何か理由があるとしか思えない。人前で素顔になれない理由が…。
何気に気になったのは他にもあった。あの手袋だ。他の隊員は明らかに戦闘用の厚手の手袋か、素手で戦っているのに彼女は比較的薄手の黒手袋だった。それも手首より少し長めのもの。

ゼルフェノア隊員の制服は詰襟タイプなので肌の露出が少ないが、あの仮面の隊員はさらに少なく感じた。首しか出ていない気がする…。


なんかあの人、話し方は冷淡だったけどそんな感じはしなかったんだよなー。
もしかして俺のこと、知ってて刀を託したのかもしれない…と妄想なのかなんなのか、どんどん広がっていく。俺、ヤバい。

一体あの人は何という名前なのか?
明日になればわかる。わかるが…なんでか知りたくない気もする。あぁ、もどかしい!



ゼルフェノア本部・司令室。宇崎は独り言をぶつぶつ言ってる。


「やっぱりあの少年は陽一の息子だったわけね〜。待てよ、この際だから明日は実力見れるチャンスかもしれん。まさか学生に素質がありそうな原石がいたとはな〜」


宇崎は晴斗の学校で起きた、メギド案件の映像をリピートしていた。
この身体能力で素人って、なんか色々おかしいでしょうよ…。

明日は鼎とご対面だな、暁晴斗は…。鼎も気になっていたみたいだし。


司令室に彩音が突然入ってきた。

「ちょーっ!彩音、司令室入る時くらいはノックしなさいよ!」
「…え?しましたよ?」
彩音はぽかんとしている。

宇崎は気を取り直した。
「…で、鼎の様子は?」
「だいぶ良くなりましたね。ですが大事を取って、今日はこのまま本部に泊まります。一応私も泊まりますよ。鼎のリスクは常にありますから」
「彩音は鼎との付き合い長いもんな…」
「時折鼎は無茶しそうになるのでハラハラしますよ。…まるで私、保護者みたいじゃないですか」

鼎と彩音の関係は親友同士だが、限りなく彩音は鼎の保護者に近いがな…。色々とあって、そんな感じになっている経緯がある。


「明日もし、メギドが出ても鼎は出動させないつもりだ。鼎はどうしても身体に負荷がかかるから連続は難しい。指揮だけなら可能かもしれないが、あいつの性格的に戦いそうだしな…」
「やっぱりそうですよねー…」
彩音も微妙な表情。

「とにかく鼎にはゆっくり休んでもらうからな。少しでも回復して貰わないと…」



救護所にいる鼎は、身体を休ませるために眠ることにした。救護所の電気は既に消してある。
本部に泊まる時、鼎は常に仮面を着けた状態。寝る時も。救護所にいつ人が来るかわからないから。

普段、ゼルフェノア寮(某アパートの部屋)にいる時は寝る時仮面を外している。完全に1人になれる空間だと別だが、本部だと勝手が違うからだ。



翌日。晴斗は「ゼルフェノア本部」なる、対怪人組織の本部に刀を返しに行くことになった。
小さい頃憧れたヒーローのようなゼルフェノア隊員がいる、大元の本部。

晴斗は自転車を飛ばし、本部の前までやってきた。



やがてゼルフェノア本部前のゲートへと到着。晴斗は思わず見上げてしまう。


ゲートでけー。本部もでけー。なにこれ全てがスケールでけー!これが都心の郊外にあんの!?
隣にあるのは病院か?ここらへんで1番大きい組織直属病院なんだっけ。デ、デカイ…。

本部と病院、規模は同じくらいかパッと見、本部の方がデカイように見えるけど…。
…てか、グラウンドも学校の校庭よかでかくありません!?
ここ、演習場もあるの!?裏にちらーっと見える林と草原、あれ全て演習場!?


なんかとんでもないところに来てしまった…。

晴斗はゲート前で用件を伝えると、金属製のゲートはガシャンと音を立ててあっさり開いた。晴斗は自転車をゲート横の駐輪場に停めてある。


晴斗は緊張しながらゼルフェノア本部の出入口へと向かう。本部まで距離があるな…。ゲートから徒歩3分くらい?
正面入口はゲートから約3分ほどの距離にあった。

この時点で少し疲れてる。緊張もあるのだけども。


そうこうしているうちにようやく正面入口へと着いた。扉はあっさり開いた。
人の出入りがあるから当たり前か…。


晴斗は受付で館内地図と入館証を渡された。
隊員以外の人間は、入館証がないとさらにある扉の向こう、本部入館を許可されない仕組み。
晴斗は前日に連絡していたので、名前の照合と入館証だけで済んだ。

隊員だと隊員証をスキャン・指紋認識・顔認証するとようやく入れる。



晴斗は前日の連絡通り、ある部屋を目指す。そこに仮面の隊員がいるというのだ。
地図を見ながら、時々迷いながら例の部屋を目指した。たまに優しい隊員が場所を教えてくれたりもする。


入館してから約10分〜15分、晴斗はようやくその部屋へとたどり着いた。
部屋の扉がまるで学校の教室みたいだと感じた。ガラスは目隠しされてはいるけども。

晴斗は緊張しながらノックをする。中から「どうぞ」と冷淡な声が聞こえた。ドキドキしながら扉を開ける。そこには折り畳み式机とパイプ椅子・控えめな棚だけの質素な部屋だった。

そして中にはあの仮面の女隊員が椅子に座り、待っていた。


「昨日の…人ですよね…?か、返しに来ました…!すいません、借りたままで」

晴斗は心臓バクバクで彼女の元へと近づく。鼎は一瞬、ビクッとした。
もしかしてこの人…怖いのだろうか…。昨日の今日でまともに顔合わせするのは初めてだ、相手も緊張しているはず。


晴斗と鼎は互いに緊張しながらも、まともに顔合わせをすることとなった。



第2話(下)へ続く。