暁晴斗が成り行きで怪人を倒してから数日後の某高校。晴斗のクラスではバスケ部のクラスメイトがお礼をしてきた。

「暁、あの時俺を助けてくれてありがとな。暁はヒーローの素質あるんじゃないの?戦ってたじゃん」
「あれは成り行きで…」
「いつでも助っ人、待ってるぞ」

クラスメイトは肩を軽く叩きながら席へと戻った。



それからさらに数日後、日曜日。晴斗が成り行きで怪人を倒してから約1週間経過していた。
暁家にインターホンが鳴る。まだ午前中。晴斗は寝ぼけながら玄関に出た。


扉を開けるとそこには鼎ともう1人、女性隊員がいる。誰だ?
鼎は晴斗を見るなり開口一番、ある書類を見せながら言った。

「本部司令の代理で来た。暁晴斗、ゼルフェノアの契約書にサインをして欲しい。期間を与えるからすぐに返事はしなくてもいいそうだ」


け…契約書ォ!?一気に目が覚めた。
晴斗は鼎が見せた書類をじっくりと見た。確かにあの、「特務機関ゼルフェノア」の契約書だ。


「いきなりすぎません?紀柳院さん。…と、えーと隣の隊員さんは一体誰ですか?」

晴斗は鼎の隣にいる女性隊員に聞いてみる。
晴斗はあの騒動以降、顔合わせで緊張したとはいえ馴れ馴れしく鼎のことをいきなり名前で呼んでしまい、「顔は見えないが明らかに年上だよな…。名字呼びが妥当だろう」と呼び方を変えていた。


彩音は答えた。

「申し遅れました、鼎の先輩…いや親友か…の駒澤彩音です。今回は鼎の付き添いで来ました。彩音でいいよ」
「彩音さん、これ…どういうことなの?」
「室長が君のことを見込んでいるんだけど、急に返事しろってったって無理でしょ?だから期間を与えようとなったのよ。鼎、『あれ』晴斗くんに渡してね」

鼎はうなずくとバッグの中から何か武器のようなものを取り出した。
鉈…?刀身は布で巻かれているが刀身が大きめの鉈にしか見えない…。


鼎は淡々と伝える。

「返事はまだでいいが、室長からこれを一応受け取っておけとの言伝てだ。対怪人用のなまくら・『東雲』だ。初心者向けのものだぞ。見た目は鉈だが、怪人相手にしか効かない。対怪人用装備は人間や動物には無害だ」

鼎さんの口調は冷淡で独特だ。少し古風な言い回しをするらしい。
対怪人用装備って、本当に怪人にしか効かないんだぁ…。人間や動物には無害って。銃は当たると痛そうだが。


晴斗は恐る恐る鉈を受け取った。晴斗は気になっていたことを聞いてみた。

「なんで家わかったの…?」
鼎は即答。
「学校でのお前の戦闘データから室長が住所をサーチし、割り出した。言っておくが、契約書や東雲に文句があるなら室長に直接言え。これも任務なんだよ」

鼎さんの言い方は冷淡だよな〜。仮面補正で余計に冷たく見える。
ゼルフェノアって、事務的な任務もあるんだ…。ヒーローの裏側を垣間見た気がする。


彩音は鼎に耳打ちした。鼎は晴斗に一言、言って暁家を後にした。
「また契約書持ってくるからな。それまでに考えておくんだな」



晴斗は鼎から受け取った対怪人用の鉈を見つめる。受け取ってしまった…!
…てか、契約書…サインしたら俺は隊員になれるのか!?あぁ悩む。確かに小さい頃からヒーローには憧れていた。いたのだが…契約したらどうなるの?

晴斗は理解が追いつかないでいる。



東京都心郊外・ゼルフェノア本部。司令室では宇崎が鼎と彩音と話してる。

「予想通りの反応だな。ズブの素人がいきなり怪人倒したら、そりゃあ理解なんて追いつかないって。しかも相手は高校生だ。当たり前の反応だろ?…な、鼎。お前もそうだったんだからな。5年前か…。鼎が彩音を素人なのに助けたのは」
「あの時はやられた彩音を見ていられなかったんだ…。今でもはっきり覚えている…。銃の感触を」



5年前―。当時の鼎はこの時はまだ、組織には入っていない。

突如市街地に出現した怪人の襲撃に巻き込まれた鼎は、目の前で親友の彩音が攻撃を受けて動けないところを目撃してしまう。彩音は必死に叫ぶ。
「鼎!早く逃げて!!」

鼎は動けなかった。体が硬直して動きたいのに、動けない。
恐怖と戦いながら、本来なら素人が使えない仕様の対怪人用の銃を使い、鼎は彩音を狙うメギドに一発撃ったのである。メギドは怯み、その隙に別の隊員が殲滅した。

鼎の手はガクガクと震えている。弾は命中した。


この件以降、鼎はゼルフェノアに入ることを決意する。鼎がゼルフェノアに入ったのは4年前。



京都中心部郊外・ゼルフェノア支部。御堂が本部に戻るまで約2週間ある。御堂と囃は呑気に会話。

「室長のやつ、成り行きでメギドを倒した高校生をスカウトする気なのかねぇ〜。『暁晴斗』っていうんだっけか。そのガキ」
「和希〜。見てもいないやつをいきなりガキ呼ばわりすんのは良くないぞ〜。もしかしたらとんでもない逸材かもしれないじゃん」

「囃、お前なぁ…」
御堂はめんどくさそう。



ゼルフェノア本部。宇崎と鼎・彩音の会話はまだ続いてる。

「鼎、お前…暁晴斗が気になってる…って、まぁ当然か。あの時ブレードを託したのも、わかっててやったんだろ」
「そうだが」
「やっぱり宿命なのかねぇ…。宿命っていうか、なんていうか」



某廃工場。そこにはメギド戦闘員複数と植物系メギドが。よく見ると幹部らしき男女もいる。彼らは人間態。
男性は陰のあるイケメン、女性は妖艶な美女。美男美女。


「鐡様はまだかしら〜」
「鐡様は今回ゼルフェノア潰しの様子見に来るんだっけ?珍しいよな、わざわざ来るなんてさ」
男性は冷めた態度。

「メギド使って人間の生体エネルギーを奪う身にもなれってんだよ。鐡様のことだからヤバい計画立ててるだろうしな」
「前回の『アイアン・メギド』は調子狂わされたわね。素人に倒されちゃうんだもん。今回は『ローズ・メギド』に働いてもらうわよ。あの蔓は強力だからね…」

幹部2人はローズ・メギドと戦闘員と野に放った。周囲はパニックに包まれる。幹部2人はメギドだけを残し、姿を消した。



ゼルフェノア本部。アラートがけたたましく鳴る。
宇崎はメインモニターを見た。さらにサブモニターで地図を出し、場所を確認。

「鼎!彩音!今すぐ出動しろ!メギドが出現した!場所は廃工場付近」
「了解!」

鼎と彩音、それと隊員3人は現場へと急行した。



暁家。晴斗はなぜか胸騒ぎがした。この武器を受け取ってから、なんでだろう…怪人の出現場所がちらつくのだ。そういう仕様なのかはわからないが、どうも気になる。

晴斗はいてもたってもいられず、急いで自転車を飛ばす。鉈も持って。


なんだか嫌な感じがするんだよなー…。なんなんだろ、この胸騒ぎは…。



某廃工場周辺。ローズ・メギドと戦闘員は人間の生体エネルギーを奪うべく動いていた。
そこに鼎達隊員が到着。

「蔓をぶち切るかしていち早く市民を解放させるんだ!避難もさせろ!」
鼎は指示を出す。隊員達は銃を使い、人々に巻きついた蔓をなんとか切り避難させつつ、戦闘員と交戦中。


彩音と鼎はローズ・メギドと対峙。
「お前がやったのか…」

鼎は抜刀の体勢に、彩音は銃を構える。ローズ・メギドは嘲笑いながら体から蔓を展開。彩音はなんとか銃で蔓を切るが、鼎は仮面故に視界が狭いことが仇になってしまう。

「鼎!蔓が…!早く切らないとマズイよ!!」
彩音は援護に出ようとしたが、鼎の体は蔓に巻きついかれてしまい、身動きが取れない。
鼎はなんとかもがいている。

マズイ。鼎の弱点は仮面だ…。あのベネチアンマスクは日常用兼戦闘用だけど、呼吸穴が1ヶ所・鼻の穴しかない。
もしそれが塞がれようもんなら、鼎は間違いなく酸欠を起こしてしまう。早く助けないと…!


鼎は必死にブレードを抜刀しようとしたが、手が届かない。これでは使えないではないか!

彩音は鼎がだんだん蔓に包まれる様を見るしかなかった…。やがて腕の自由が効かなくなり、蔓は鼎の顔を覆いかけている。鼎は必死に叫ぶ。

「彩音!撃て!このままでは…酸欠を起こしてしまう…。その前になんとか…なんとかしてくれ…」


鼎に巻きついた蔓は仮面の呼吸穴に達し、蔓の動きは停止した。
「せいぜい苦しむがいい。仮面の女」

ローズ・メギドは喋れるらしく、鼎をギリギリと苦しめる。蔓は鼎の体を締め付けた。
メギドから蔓を切ればいいのだが、あの蔓は他のものと違って太い。銃では簡単に切れそうにないし、相手は植物系。メギドの体に鮮やかな赤い薔薇があるのも引っ掛かる。


鼎が蔓の餌食にされてから約2分経過。鼎はなんとか仮面内部の空間の空気を使い、かろうじて呼吸していたがだんだん苦しそうにしている。酸素が足りなくなってきたんだ…。

彩音は迷っていた。銃で向かうとしてもメギドの餌食になる可能性もある。ここは肉弾戦で行くか?
とにかく鼎に残された時間は少ない。酸欠起こされたら鼎は戦闘どころじゃなくなる…。早く助けなきゃ…。


そんな中、晴斗は自転車で到着した。晴斗は無我夢中で鉈の布をふりほどいた。


「晴斗くん!」
彩音は安堵したようだった。
晴斗はメギドを見るなり、嫌な感じがした。あの蔓に巻きつかれた人って…鼎さん!?
鼎の腕はだらりとしていて、明らかに動けないのがわかる。



鼎は晴斗を見る余裕すらもだんだんなくなっていた。かろうじて晴斗を見た。そして呟く。
「やはり…来たか…」

鼎は明らかに酸欠起こす寸前まで来ている。かなりゼイゼイ言ってる。苦しさで意識が遠退きそう。


晴斗はダッシュでローズ・メギドに強烈なドロップキックを喰らわせた。メギドは一瞬怯む。
鼎さんを助けるにはあの蔓をどうにかしないとならないな…。


晴斗は鼎を横目に見た。かなり苦しそうにしてる。蔓が仮面の呼吸穴を塞いでるんだ。
晴斗はがむしゃらに鼎に接近し、顔の周りに絡みついた蔓を掻き分けようと必死。

「鼎さん、絶対助けるから!」
鼎は気を失いかけていた。目の前に必死になっている晴斗の姿が見える。

「晴斗…」
鼎の声は弱々しい。


敵は容赦なかった。必死に蔓を掻き分ける晴斗の妨害をしてきたのだ。晴斗は怒りに満ちていた。

対怪人用の鉈・東雲でいきなりメギドに攻撃する。攻撃はめちゃくちゃだが、いち早く鼎を助けたかった。


鼎は明らかに気を失いかけている。なぜか彼女の仮面は勝手に外してはいけない気がした。
晴斗は鉈の使い方を知らず知らずのうちにマスターしていた。闇雲にやってはいけない。

この切迫した状況で晴斗は確実に成長を見せ始めていた。


彩音達も戦闘員と交戦中。戦闘員は怪人ランク最弱だが、数で攻めてくる。
彩音達はローズ・メギドに攻撃している晴斗を援護しながら、戦闘員を倒してる。

問題はやはり、あの薔薇野郎…。
鼎に残された時間は僅かになりかけていた。





第3話(下)へ続く。