諜報員・高槻のおかげで元老院の動向がある程度読めてきたゼルフェノア。どうやら敵は内部抗争勃発寸前なのか、険悪らしい…。


ゼノク・司令室。

そこには蔦沼・西澤・南の3人が。本部・支部とは異なり、ゼノクの場合は蔦沼本人が指揮することもあるが、ほとんどが室長の西澤に委ねられている。

ゼノク所属隊員は西澤によって動いている。


じゃあ長官は何してるかというと、長官としての業務をしつつ敵の動向を監視。はたまた自ら装備などを開発したりと自由奔放。

今回はゼノク所属の諜報員を異空間に送り込むという、トンデモ技をやってのけた。
高槻はそこで元老院の長と鐡が敵対してると知る。そして元老院の目的も判明。それは「ゼルフェノア潰し」だった。



その報告を聞いた蔦沼達の会話はこんな感じ。


「鐡は目撃情報が少ないが、暁と接触した黒づくめの男ですよね。長官」

「西澤、そいつが鐡だよ。今現在調査中だが、鐡は何の意図で暁に接触したかもわからないんだ。
どうやら鐡は元老院と敵対しているみたいだね〜。今は元老院の力が強いから元老院vs鐡の構図ねぇ。……互いに潰し合えばいいのに。うちから見たら敵同士なわけだから」


今、長官「潰し合え」って言った!?
そりゃあ、敵が内部崩壊したらうちらからしたら楽になるけどさっ!


西澤、思わずツッコミそうになるのを寸前で抑えてる。


西澤は気になっていたことを蔦沼に話してみた。

「高槻の報告からするに、迷い人を利用しているとなるとどうにかしなければなりませんよ。
人間が異空間に迷いこむ→元老院に無理やり連れてこられ→監察官になれるよ〜と居場所を与え→洗脳した上に→監察官になれた人間は部下として使い、そうでない者は容赦なく抹殺されていたなんて、極悪非道ですよっ!」
「元老院は手段を問わないからね。まだ鐡には心があるようだよ。元老院に宣戦布告したらしいし」


「長官!?鐡に関してはまだ調査中なんじゃ…」
「鐡はね、イレギュラーなやつかもしれないよ」



異空間。元老院本拠地。


鐡は夜中、館へと侵入していた。あることを確かめるためだ。
鐡は元老院の館を全て把握していた。なぜ、人間がいとも簡単に洗脳されているのか、気になっていたからだった。


あれにはカラクリがある…。


鐡はある部屋を開けた。そこには元老院の出で立ちとなっている、ローブと白い仮面が置かれている。見たところ、新しい。

なんとなく鐡は白いベネチアンマスクに触れてみた。


…なるほどな。あのジジイと腰巾着、姑息な手を使っていたのか…。

迷い人には罪はねぇ。そんな人間を洗脳したのが許せなかった。おまけにジジイどもは監察官以外の人間を抹殺してるらしいじゃねーか…。


だから極端に館にいる人間が少なかったんだな。
今回はあの高槻とかいう男のおかげで、4人は脱出出来たみたいだが…。
監察官になっちまった朔哉というやつ、洗脳を解いてやるかねぇ。


鐡はその白い仮面をひとつ、拝借した。
洗脳のカラクリはこの仮面だろうなぁ。独特のルールと仮面の掟がある時点で怪しいとは思ってた。


鐡は館を後にする。さて…あとは朔哉とどう自然に接触しようかな。…俺、何やってんだろ。人助けなんていうガラじゃねーのに。



2日後。元老院本拠地。


鐡はものすごく自然に朔哉に接触。
「あ、貴方はく…」

朔哉が「鐡」と言いかけたところを鐡は彼の仮面の口元を押さえる。朔哉は動揺し、言えなくなった。

「あんた、本当に楽しいか?この元老院がよ。監察官の朔哉と言ったな…。ちょっとこっちへ来い」
「な、何をする」
「でけー声出すなよ?出してジジイどもに知らせたら…わかっているだろうなぁ?」

鐡は脅しつつも朔哉をある部屋へと連れていく。そこは倉庫だった。


元老院の元締めはまず来ない場所として、倉庫にしたわけで。
この館には元締め以外にも使用人が常駐している。使用人もローブは着てはいないが仮面着用。


鐡は朔哉にジリジリ話す。


「あんたは鳶旺に騙されているんだよ。そして洗脳されている。自覚ないだろ?」
「鳶旺様がそんなこと…」

「元の世界に帰りたいとは思わねぇのか?あんたはここへ迷いこんだ『人間』なんだよ」


朔哉の様子が変だ。鐡は察した。やはりあの仮面が洗脳に大きく関係してやがる…。
鐡は左耳のピアスを指先でつん、と揺らした。ピアスからはキーンというような高らかな金属音が鳴る。



「洗脳を解いてやったぞ。朔哉、お前はこの世界にいるべきじゃねぇ。元の世界へ帰りな」
朔哉は音で気を失っていた。鐡はその隙に朔哉の仮面を外す。

やっぱりな…。仮面と強力な暗示による洗脳か…。


鐡は再びピアスを鳴らした。朔哉は目を覚ます。そして寝起きのようにぼーっとしていた。
鐡はワームホールを出現させる。朔哉は言われるがままに元の世界へと帰された。


「もう2度と、迷いこむんじゃねぇぞ」

鐡は姿を消した。



元老院では朔哉が消えたことで混乱が起きている。

「監察官はどこだ!?」
「どこにもいない!」
「消えるなんて前代未聞だぞ!?」


そこにふらっと現れたのは鐡。

「何をお探しでしょうか、鳶旺『様』」
「鐡!貴様何かやったのか!」


鐡は冷めた態度。

「していませんよ?だいたい迷いこんできた人間洗脳して、最終的に抹殺なんてひどい話だよねぇ。
あんたら人間が憎いんだろ。『ゼルフェノア潰しは』名目に過ぎなくて、本当の目的を吐けってんだよ」

「妨害かね?挑発か?」
「両方だ。…さっさと俺の部下達、返してくんねぇかな。幹部達が板挟みになってるの、わかってないだろ。人間でもメギドでも物扱いすんのな」


――しばしの間。


「元老院の敵は俺だけでいいだろうがよ。目的は知らねーが、迷い人の洗脳と抹殺はやめやがれ」
鐡の語気が強くなっていた。そして消えた。


残された元締め2人は黙りこんでいる。

…鐡に全て見抜かれていた…!ゼルフェノア潰しはただの名目であることでさえも見抜かれていただと!?



鳶旺は焦りを見せ始める。鐡、完全に見くびっていた…。

「絲庵、やり方を変えるぞ。迷い人を使わずにやる」
「通例をなくすんですか!?」
絲庵は大袈裟なリアクション。

「鐡に見抜かれてしまった以上、やり方を変えるしかないだろう。だが、幹部はまだ返さないがな」





第17話(下)へ続く。