司令室では緊迫した状況。
「病院側のシールド、持ち堪えられません!そろそろ破られますっ!」
南が叫んでる。蔦沼は冷静。

「シールドの強化はMAXか?」
「MAXにしていますっ!…ですが、あの攻撃のせいで持たなくなってきてますよっ!!」

蔦沼は西澤と南にこう、告げる。
「北川を呼んだのはね、紀柳院の能力(ちから)を発現させるために助言者として呼んどいたの。
そろそろ彼女がいる病院で変化があるかもね」


なんで長官はそんなにも、余裕なんだ!?



ゼノク・病院地下シェルター。
鼎は光を帯びたブレード、それも宙に浮いているものを目の当たりにしていた。


「独りでにブレードが動いた!?」
「君の想いに共鳴したんだろう。間接的にでも戦えるよと『鷹稜(たかかど)』が示したんだね」

北川は助言者として教えてる。



晴斗達がいるゼノク外部では、鳶旺(えんおう)の容赦ない攻撃で病院のシールドがそろそろ破られようとしている。

「晴斗っ!なんとかならねぇのかよっ!シールド破られちまうぞっ!」
御堂から通信が。

「わかってるよ…!こっちもなんとか食い止めてるけど…体力の限界が近いんだよ…」
「病院には鼎がいるんだぞっ!諦めんなっ!!」


鐡は半怪人態の鳶旺と激しい戦いを繰り広げてる。

「能力(ちから)奪ってどうする気だ?ジジイよぉ」
「貴様には教えぬ!」
「今回はあんたを倒すのが目的じゃねーからね。俺はよ」



鼎は鷹稜に話しかける。
「鷹稜…私は仲間を守りたい…。直接戦えなくてもいいから…守りたいんだ」


鼎のブレード・鷹稜はフッと姿を消した。


「ブレードが消えた!?そんなことあり得るのか!?」
鼎、動揺してる。

「鷹稜は発現した君の能力(ちから)を媒介したんだろう。大丈夫。このシールドは守られたままになる」
「病院のシールド、破られかけてるのに!?」



ゼノク外部では不可思議な現象が起きていた。
病院に張り巡らせたシールドを破ろうとしている鳶旺の赤黒い棘に対抗するかのように、鼎のブレード・鷹稜が突如出現。

鷹稜は眩い光を放ち、シールドを破ろうとする棘を浄化する。


「あれ…鼎のブレードだよな…」
御堂、固まる。
「鼎さんのブレードがなんで独りでに!?」
晴斗も驚きを見せる。


鷹稜単体の強力な浄化は鳶旺の赤黒い棘を次々浄化、無効化した。
これには鳶旺も想定外だったようで、ダメージを受けている。

「都筑悠真…能力(ちから)が発現したか…!」
鳶旺は悔しげに声を出す。鐡はこんなことを言った。

「能力が発現した以上、あの2人に簡単には手を出せなくなったな。ジジイ。残念でした」
「…鐡ぇ…!」


鳶旺は人間態へと戻り、異空間へと消えた。鳶旺はダメージを受けていた。
元老院の攻撃が止まったことで、病院に張り巡らせたシールドはギリギリ破られずに済んだ。



ゼノク・病院地下シェルター。
鼎のブレード・鷹稜は何事もなかったかのように主の元へと戻った。その時点で光は消えている。


「鷹稜…帰ってきたのか」
鼎は優しい声で愛刀に話しかける。北川はこんなことを言った。

「俺は君の『助言者』として来たんだ。今回は紀柳院の能力を発現させるきっかけを作るためにね。
君を見守っているのは本当だ。水面下でずっと動いていた」
「北川さん…もう帰るのか…?」


鼎は帰ろうとする北川に声を掛ける。声が泣きそう。

「俺とはまた会えるから泣かないで。声…泣きそうになってた」
北川は鼎の仮面の頬に優しく触れる。鼎は北川の手に触れた。


「また…会えるのか…?」

「来るべき時に俺はまた来るから、心配しないで。紀柳院は繊細だからな…なんか…泣かせたみたいでごめんな」
「私はあなたにまた会えて嬉しかった…。あの時の恩は忘れていない…。居場所を失った私に場所をくれたのだから…」



そうか…紀柳院はあの事件後、ずっと独りだったから恩を感じているんだね。


全てを失い、居場所がなかった紀柳院は「都筑悠真が生存している」という事を元老院から隠すために、組織直属の施設に匿う形になった。本人には住居と生活面のサポートを提供するような形で。
組織直属施設なので、ゼルフェノアのバックアップを彼女はこの時から受けていた。

鼎が匿われた施設はゼノクとは違う施設で、一見するとアパートのような場所。違うのは「怪人被害者組織ノア」職員や看護師が常駐していた点だ。
この施設は怪人被害で居場所を無くした人達が入居していた。小規模なゼノクのようなところだ。


鼎は火傷のダメージから生活面のサポートが必要だった。目に受けた火傷のダメージが深刻なのもあり、仮面は必要不可欠に。
鼎が施設に入った当初は慣れない仮面生活に苦戦していたと聞く。狭い視界に慣れず、よくぶつかっていた。


ゼルフェノアにはこのような小規模な組織直属施設も点在する。ノアが解体され、ゼノクに移行した現在でも怪人被害者のサポートは手厚い。
組織直属の小規模施設はアパートタイプやシェアハウスタイプなど、形態も様々。



北川は鼎の頭に優しく触れた。

「紀柳院…泣いてるのか?」
「…次、いつ会えるかわからないんだろ?だから……」

鼎はなんとか声を絞り出している。聞いてるこっちも辛い。
明らかに紀柳院は仮面の下ですすり泣く声がしたから。


「紀柳院には仲間がいるだろ?もう『独り』じゃない。俺がいない間もやれていたじゃないか」
「…はい」
「紀柳院…少しは落ち着いてきたかな?」


北川は優しくしてる。いつの間にか鼎の涙は止まっていた。
北川はさりげなく鼎の仮面の紐に触れる。


「北川さん…何を…」
鼎は少し拒絶反応を見せる。

「あれから10年くらい経ったね。君の素顔…見ていいか?顔の火傷の跡がどうなったのか見たいんだ。あの時も素顔…見せてくれただろう?」

あの時…施設に入る前だ。


「…北川さんなら…構いません」
「なんか…ごめんな。本当は嫌なのに…無理しなくてもいいのに」


北川は手慣れた様子で鼎の仮面をそっと外す。角度の関係で鼎の素顔はほとんど見えないが、北川は鼎の現在の素顔を見て思わず目を反らした。

あれから10年くらい経っているというのに…顔の大火傷の跡はほとんど変わっていない…。
怪人由来だからなかなか良くならないのか…。身体の方は跡が目立たなくなってきてるのに…。


「あの…北川さん。私、目に負担がかかるので仮面着けてもいい…ですか…」
「あ…あぁ。そうだったね。紀柳院は長時間素顔になれないんだったね…」


鼎はいそいそと仮面を着ける。そしてうつむく。彼女の気に障ってしまったかな…。


「目のダメージは変わらずか…。不便だろうに」

「そのための仮面ですから。目を保護しなければ外出なんて出来ません。火傷の跡も顔はなかなか良くならなくて…あれからずっと仮面生活を強いられてるから…」
「紀柳院…本当にごめん。デリケートな話に突っ込んでしまって…。仮面事情に関しては詳しく知らなかったんだ。許さなくてもいい…本当に謝るよ」


北川はそう言うと地下シェルターを後にした。



ゼノク・司令室。北川は蔦沼達のところにいた。


「長官…俺、紀柳院を傷つけたのかもしれない…。あの仮面、そんな事情があったなんて…迂闊でした」
「紀柳院は彼女なりに必死に伝えていたんだろう?大丈夫だよ。ただ彼女は繊細だからなぁ…。ああ見えて」


蔦沼は話題を変える。

「あ、そうだ。助言者として紀柳院の能力(ちから)発現のきっかけは作れたんだろ?」
「それは成功しましたね。やはりあの『鷹稜』が鍵でしたよ」

「これで暁・紀柳院、双方の能力が発現したことになる。元老院の脅威からは少しはマシにはなるだろう」

西澤が割り込んだ。
「長官、問題は紀柳院のケアをどうするかですよ。彼女はまだ退院の目処は立ってないし、北川が知らず知らずに彼女を傷つけたとなると…」
「余計なこと、言わなきゃ良かったのかな…」

北川、かなり落ち込んでる。


蔦沼、なんとか勇気づけようとする。
「北川、紀柳院は君のことを慕っているみたいだしそう落ち込むなよ。紀柳院は以前と違って仲間もいる。孤独じゃない」

「…でも彼女…寂しげでした。仮面で顔が隠れてるとはいえ、なんですかねー…背中が寂しそうなんですよ。人前で仮面装着している人間が自分しかいないという、孤独なんでしょうかね……」
「紀柳院は人前じゃなくても仮面姿だよ。目の保護をしなきゃならないから。ゼノクにも人前では仮面姿の人はいるが、事情が全然違うからなぁ。
でも紀柳院は彼女と打ち解けてたから心配するな」


北川、沈黙。

紀柳院は複雑な事情があるようで、彼女も悩んでいるようにも見えた。仲間にも言えない悩みもあるかもしれない…。


北川は気を取り直した。

「そ、それじゃあ俺は帰りますね。また要請あったら来ますから」
「紀柳院のこと…水面下で頼んだよ。ひっそりと支えてあげてくれ。彼女には北川が必要だ」

「…わかりましたよ」


北川は複雑そうにして司令室を出た。





第32話(下)へ続く。