3日後。本部・駐車場。

「なんでしぶやんがいるの!?違う任務じゃなかったっけ?」
組織車両に乗ろうとしたいちかは、スタンバイしていた霧人を目撃。霧人は愛用の赤いバイクにいつでも乗れるようにしていた。


ライダーススーツ姿の霧人は淡々と答える。
「お前達の護衛頼まれたんだよ。室長にな」
「ご、護衛!?」

霧人はめんどくさそうに続ける。
「今日ゼノクに行くメンツ、桐谷さんは運転手・鼎は戦えない身体だろ。時任くらいしか移動中は戦えるヤツがいない。
これで襲撃されてみろ。全滅は免れないってわけ」


鼎は車内から顔を覗かせた。
「霧人が護衛だなんて頼もしいな」

「最近格上のヤツが出てるし、御堂が言うには敵は長官を狙うんじゃないか説が濃厚。
だから同行するわけ。バイクなら小回りが利くからね」


カーチェイス前提の言い方だな…。


「バイク隊は大丈夫なのか?」
「鼎、心配するなよ。部下は有能だから」


それぞれ準備が整い、組織のワンボックスカーとバイクはゼノクへと向かう。
霧人のバイクは護衛ということで後方についていた。



その頃の西澤。彼は地下探索を隙をみてやっている。


「今日だっけ。紀柳院と時任が憐鶴(れんかく)に会いに来るのは。…探索する時間がないな」

西澤は限られた時間を使い、地下を進む。2つ隠し通路が見つかったが、まだ何かありそうな気がする。



車内ではいちかが桐谷と鼎と話をしてる。


「きりゅさん、憐鶴さんは怖い人なのかな…」
いちかはかなり不安そう。

「それは先入観だろ。『闇の執行人』は通称にすぎない。先入観を捨てろ。
もしかしたらやむを得ない理由があって、あえて汚れ仕事を引き受けたかもしれない。…推測だが」

「それはありそうですね。彼女は『怪人専門』の執行人というのが肝かもしれません。私は詮索しませんよ」



西澤は時計を見ながらずんずん地下を進む。まだ紀柳院達は来ないか。

しばらく進むと怪しげな壁が。3つ目の隠し通路なのか?
西澤は恐る恐る壁に触れる。今までのとは壁の色が違う。何も起きない。

「…隠し通路なのか?」


西澤は時間を気にしながら地下探索をやめ、戻ることに。



一方、移動中の鼎達。


「しぶやん今のところ音沙汰ないね」
「いつ来てもおかしくないだろ、敵が」

「油断大敵です」
桐谷はかなり冷静に運転してる。


護衛の霧人も周囲を警戒している。やがて東京からゼノクのある群馬へと差し掛かる。

異変が起きたのはその直後。
「なんか音してない?」
いちかは辺りをキョロキョロしている。鼎も気になっているようだ。


突如、爆発音がした。霧人はバイクのスピードを上げ、桐谷が運転する車を先導。霧人から通信が聞こえた。
「敵襲だ。これから俺が先導する」

霧人は爆撃は次々避けつつも、鼎達が乗ってる車を先導している。
いちかは後方を見た。


「敵のやつ、あの格上の鬼っすよ!!1体だけっすが…」
「いちかさん、銃構えて!」
「き、きりやん了解です」

いちかは対怪人用の銃を構え、窓を開ける。敵はどこなんだよ!!



姿の見えない敵に翻弄されながらも、霧人といちかのおかげでなんとか撒くことに成功。いちかはヘトヘト。


「つ、疲れた…」
「ゼノクまでまだだから休んでいろ」

鼎は冷淡な言い方だが、いちかを気づかっている。いちかはいつの間にか眠ってしまった。

ゼノクまであと少しなのだが、やけに遠く感じる。同じような景色が続くな…。


霧人は幻術だと気づく。

「桐谷さん、景色変わってませんよね?おかしくないか?」
「ゼノクにそろそろ着くはずなのに、おかしいですよ」

「鬼のヤツ、何か仕掛けたな…」
霧人が呟く。



裂鬼はこの様子を異空間から眺めていた。

「この幻術解けるかな〜?」



ゼノクでは憐鶴がなかなか来ない鼎達を気にする。

「姫島さん、鼎さんと時任さん…来ないですね…。運転手の桐谷さんと護衛の渋谷さんも一緒らしいですが…」
「何かに巻き込まれたとか?」


そこに蔦沼がひょっこり顔を出した。

「彼らは惑わされたのかもしれないなぁ」
「惑わされた…とは?」


憐鶴が思わず聞き返す。蔦沼は答えた。

「司令室で紀柳院達の動きを見てたんだけど、突如地図から消失した。
幻術か何かに巻き込まれた可能性が高い」
「幻術…?」

「彼らがここに辿り着くにはまだかかるかもな…。幻術を解かないとならないから」



一方、鼎達は。いちかは寝てしまったため、異変に気づいてない。

「やっぱり幻術だ!景色がループしてる!」
霧人は先回りしていたが、ループに嵌められたと気づく。

「どうしますか、渋谷さん」


「桐谷さん、呑気にしている場合じゃないですよ…。このループから抜け出さないとエンドレスだ」
「霧人、手がかりはないのか?」

鼎も聞く。


「鼎は何か気づかないか?空間が歪んでいる」
「歪みがループを生み出しているのかもしれないな。霧人、そのバイク…特殊仕様なんだろう?攻撃モードにして撃ってみてくれ」

「了解」
霧人はバイクを操作、攻撃モードへチェンジ。空間の歪みに銃撃を仕掛ける。


すると空間の歪みに変化が。
「霧人、もう少し銃撃してくれないか?歪みを狙え!!」
「やってるよ!!」


鼎の指示を受けた霧人はさらに空間の歪みに銃撃をする。すると歪みが「ジジジ…」とバグが解除され、景色が元に戻った。

「景色が元に戻ったな」
鼎、安堵の声。
「よーし、ゼノクに突っ走るぞ」
霧人はバイクを飛ばす。


いちかはようやく目を覚ました。

「…ん?まだ着いてなかったの?」
「いちか、起きたか。幻術にハメられていたんだよ。ゼノクにはもう少しで着くから」



予定時間よりも約2時間遅れてゼノクへ到着。

「や、やっと着いた〜」
「長かったな」


桐谷と霧人も館内へ。鼎といちかだけ、地下へと通された。案内したのは蔦沼だ。


なんで地下?いちかはキョロキョロしてる。


やがて行き止まりに。蔦沼は隠し通路の壁をスライドさせた。隠し通路が現れる。
蔦沼は淡々と2人に言った。
「ここが泉憐鶴の部屋だよ。世話役の姫島もいるが、気にしないでね」


蔦沼は扉をノックする。

「幻術に巻き込まれたせいで予定より到着が遅れてしまったが、紀柳院と時任…連れてきたよ」

扉の向こう側から声が聞こえた。
「どうぞ」


2人は緊張しながら部屋へと入る。部屋は意外と広い。
部屋の奥に黒いゼルフェノアの制服を着た、顔から首にかけて包帯をした女性が座っていた。顔全体は包帯で覆われている。異様な出で立ち。


「ようこそ来てくださいました。私が泉憐鶴です」


憐鶴は挨拶にと椅子からすっと立ち上がった。黒い制服が「闇の執行人」と云われる由縁なのか?
制服にはゼルフェノアのロゴがあるが、黒い制服は白い制服とはデザインが大きく異なる。



この人が闇の執行人、泉憐鶴…。