絶鬼に勝利してから数日後。ゼルフェノア宇宙局・航空部隊及び基地・海上基地では怪人が本当に出現しなくなったのか監視。

宇宙局司令・鴻(おおとり)から偵察衛星で怪人の姿は見受けられないと報告が入る。これは日本、いや世界に怪人が出現しなくなったことを意味していた。



本部。司令の宇崎はようやく真の平和が訪れたと安堵していた。終わったんだ…。これで数日前に言っていた「宴」が開催出来る。


「鼎、憐鶴(れんかく)は?」

司令室でなんとなく彼女に聞いてみた。


「憐鶴なら協力者2人と一緒に『後始末』という名の戦後処理しに異空間に行ったぞ。ここの地下から」

「異空間!?後始末って異空間ですんのかあいつら…。あいつらがいなかったら勝てなかっただろ。
戦勝パーティーに憐鶴達3人を誘おうとしたんだが」


「それ、いつやるんだ?」

「早くて3日後あたりだよ。5日後になるかもな。参加したいやつは自由に参加するスタイルね。ラフな感じでやるよ。北川と陽一は来るの確定してる。
…あ、場所は本部じゃないからな〜」


浮かれてるな、室長…。


そこに御堂が入ってきた。

「平和になったのはいいが、変な感じがする…。鼎、調子はどうなんだよ」
「一時的に悪かったが、加賀屋敷に診てもらったが生活に支障はないって。あの時の発作はさほど影響なかったみたいだ」


内心、「良かった…」と安堵する御堂。鼎の発作は今後も出る可能性はあるので油断出来ないのが実情。命に別状ないとはいえ、ヒヤヒヤする。

鼎の話し方、戦いが終わったせいか少しだけ砕けた感じになってる。


「和希、彩音やいちか達はどこ行ったんだ?」
「彩音といちかはパーティーの場所決めに店、下見してる。あいつら本気だからヤバいぞ」


食いしん坊のいちかに店の下見は危険なんじゃあないかなぁ…。


「彩音がいるから大丈夫だろ。ここは隊員の平均年齢若いから、リーズナブルでカジュアルな場所にせぇよとは先に言っといたけどな」
「和希…当日、隣に座ってくれないか」

鼎の声が僅かに上擦った。少し緊張気味。
彼女は顔の大火傷の跡を隠すために白いベネチアンマスクを着けてるが、普段よりも声がなんか違う。緊張してるのか…?


「当たり前だろうが。側にいてやるから」
御堂はぶっきらぼうに返すが声は優しい。



異空間。憐鶴達3人・執行人と協力者2人は後始末しに来ていた。
憐鶴は任務中なので黒い制服のフードを被り、黒いベネチアンマスクを着けている。仮面の左側には控えめに装飾がある。

協力者の苗代と赤羽は黒い制服を着てるだけだ。黒衣の時点で執行人の関係者だとわかるわけで。


「憐鶴さん、戦後処理ってここでやるんですか!?」
苗代、少しびくびくしてる。赤羽は動じてない。

「異空間にはまだ絶鬼の残党がいるからね。一気に誘き寄せて一網打尽にしますよ」


急に言い方が冷たくなった。憐鶴さんは本気モードになったんだ。
なぜなら既に手には対怪人用鉈・九十九(つくも)があったから。


苗代は銃を手にした。
「誘き寄せるってどうやって!?」
「九十九の稲妻を使うんですよ。発動させますので、苗代と赤羽は少し離れてて下さいね」


憐鶴は九十九をいきなり上空にぶん投げた。
「発動!」

ある程度飛び、なだらかに落下する九十九はバチバチと帯電している。地面に突き刺さる直前、ものすごい衝撃波が起きる。それと同時に雷鳴が轟いた。
地面に突き刺さった九十九が避雷針となる。ものすごい雷が落ちた。憐鶴は何事もないよう地面からに九十九を引き抜く。


痛くないのか?苗代と赤羽は憐鶴の予想外の行動にハラハラしていた。

憐鶴さんいくら手袋してるからって、ちょっと無謀すぎじゃあないですか!?感電してない…。


雷落ちたよね!?その鉈…。


さっきの雷鳴に触発されたのか、残党の怪人が集まり始めた。数は少ないが、あの戦闘員まだ残ってたのかよ…。


「苗代・赤羽、存分に暴れて!残党は戦闘員クラスだけですから」
「よっしゃあ!!腕が鳴るぜ!」

肉弾戦が得意な赤羽は早速怪人相手にプロレス技をかけている。苗代は近くに赤羽がいることを考慮して、銃から鎖鎌に持ち替えた。


飛び道具の扱いに長けている苗代は、投げる・撃てる・射るものなら得意。
鎖鎌を巧みに操り、次々怪人を撃破する苗代。赤羽は今度はパンチとキックで戦闘中。


憐鶴は様子見していた。
「残党はまだ来るようですか…ならば」

彼女は鉈を構えた。
「苗代・赤羽、私が一網打尽しますからバリアお願い」
「了解!」


苗代は携帯用バリア発生装置を起動。集まってきた残党の怪人達をバリア内に閉じ込めてしまう。

3人はバリアの外にいる。


「れ…憐鶴さん、これどうするんですか…」
赤羽がびくびくしながら聞いた。

「一気に潰しますよ。容赦しませんから」


敬語なだけに余計に恐怖が増してる憐鶴。黒い仮面姿で話しているのもあるのだが。これが執行人たる所以の行動か…!


憐鶴は一気に九十九から雷を放出させ、バリア内の残党を一気に殲滅させた。辺りは眩い光と轟音。
しばらくすると残党は木っ端微塵に殲滅されていた。


苗代はバリアを解除。

「後始末、終了?」
赤羽はきょとんとしている。苗代は「え?もう終わり?」…というリアクション。

「終わりましたよ。ほら、帰りますよ」


憐鶴は異空間を出るまで仮面を外そうとはしなかった。彼女からしたら異空間の外に戻れば任務完了という、認識。



3人はやがて本部に戻ってきた。憐鶴は仮面を外し、フードを脱ぐ。

御堂と鼎は3人と鉢合わせ。


「憐鶴…終わったのか?『後始末』」
「終わりましたよ。これでこの件は終了です」

「お前ら3人は来るのか?(戦勝)パーティー。3日後か5日後にやるってしつちょ…司令が言ってるぞ」
御堂はさりげなく聞いた。

「まだ考え中ですかね」
憐鶴、少し困ったような返答。

「勝利の立役者が来ないと変だろうが。北川と陽一は来るの確定してるぞ。晴斗も来るだろうな。
憐鶴の活躍がなければ勝てない相手だった…」


「紀柳院さんは行くんですか」
「和希と一緒に行くよ」
「仲いいんですね」

「お前も苗代と赤羽という仲間がいるだろうが。執行人関係には私達は首突っ込まないから心配するな」
「気づかいありがとうございます」
「任務に支障が出たら困るんだろ」

「かなり困りますね〜」


あれ?憐鶴…少しだけ言い方が柔和してるな。



司令室。


「え!?じゃあ憐鶴達3人も参加するのか!?鼎、マジ?」
宇崎、驚きを見せる。

「今回『は』参加すると聞いたよ。憐鶴は私と話がしたいらしいし」


あぁ、そういうことね。憐鶴は鼎と話をしたいんだな。
しかし、よく「白」の仮面の司令補佐と「黒」の仮面の執行人が協力するなんてなー…。憐鶴は一時的に「表の人間」として動いてくれた。

あの警戒心の強い憐鶴と打ち解けた鼎、一体なんなんだ…。あの約1週間に距離を縮めたみたいだが。



ゼノクでは蔦沼の損傷した右腕の義手を西澤に交換して貰っていた。


「西澤、やっぱり修理じゃ効かなかったのか」
蔦沼はちらっと新しい右腕の義手を見る。

「そりゃあんだけ絶鬼の火炎浴びたら使えないですって!むしろ生身はほとんどダメージないって逆にすごくないですか…。右腕、生身の方は軽い火傷してますけどね。
左腕の義手はノーダメージか…」
「左腕ノーダメ…わざとああしたのかねぇ。絶鬼のやつ。まぁ、倒したからどうでもいいか。終わり良ければって言うじゃない」


なんか開き直ってるよ!?


蔦沼は秘書兼用心棒の南に聞いた。

「怪人は本当に出現していないんだね」
「はい。宇宙局・航空部隊及び基地・海上基地に監視させてますが、偵察衛星やドローンでも未確認だと次々報告が上がってます」
「うちのゼノク・支部・本部でも注視してるけど、やっぱり怪人はきれいさっぱり出なくなったみたいだね。憐鶴のおかげでもあるんだが」

「憐鶴が?」
西澤、半信半疑。

「彼女達執行人達が異空間で後始末したおかげで、人間界には残党が物理的に行けなくなったようだね。
さすが憐鶴〜。僕が水面下で鍛えただけあるわ」


蔦沼、自画自賛。


「憐鶴は今後も『執行人』続けるんですかねぇ…」
「西澤、それは彼女の自由だから。
…ま、今回の件で彼女は仲間が近くにいたってようやくわかったみたいだね。良かった良かった」

「仲間って…あの苗代と赤羽のことですか!?」
「あの2人、かれこれ憐鶴とは付き合い長いからもう完全に仲間じゃないか」
「協力者から仲間になるとか…。仲間ってか、同志?」

「どっちでもいいじゃないか」


なんか雑なこと言ってるよ、この人…。


「あ、そうだ。紀柳院のことなんだけど」
「…どうかしましたか?」

「やっぱりパーティー当日に言うことにしようかね〜。前日かその後でもいいんだけど」


なんだよ勿体ぶって。長官はよく焦らす。焦らしプレイか!
西澤はもやもやしていた。