任命式まで約3週間前。開店休業状態のゼルフェノアだったが、今年入る新人隊員の話で持ちきりに。

「今年は少ないな〜。本部がたったの10人って。女性隊員が増えるのは嬉しいけどね」
「少ないんだ…」

鼎は呟いた。平和になったおかげ?もあるんだろうか…。



ある日。鼎は御堂のシェアハウスへ。


鼎はあれ以降、御堂のシェアハウスに行く頻度が微妙に増えた。御堂とのおうちデートの場所がシェアハウスに変わる。

鼎も逢坂のご飯に胃袋を掴まされてしまったようだ。


「あら〜、鼎ちゃん来たの〜?ご飯食べてくよね」
「あぁ」

共同スペースでは逢坂が昼ごはんの準備をしていた。逢坂はなぜか、時々オネエ言葉になることがあるらしい。


「ランチはガパオライスだよ〜。和希も食べるよね?」
「食うよ」

キッチンからはいい匂いがしている。



御堂の部屋。


「鼎、お前わかりやすいよな」
「なにがだ」

「逢坂のメシに餌付けされたな…」
「別にいいだろ」


御堂からしたら何気ない会話が嬉しくて。鼎も同じような気持ち。
なんてことない会話をもっとしたい。

2人は既に付き合っているが、さらに距離が縮む。


「ご飯出来たよ〜」

逢坂がわざわざ呼びに来てくれた。2人は共同スペースのリビングへ。鼎は既に食事用マスクへと変えていた。


運ばれてきた料理は美味しそう。他の住人は大学やバイトに行ってるので今シェアハウスにいるのはこの3人だけ。

ランチはガパオライス。3人は和気あいあいと食べている。
「美味しい…!」

鼎は器用に食事用マスクの口元にご飯を入れていく。

逢坂はニッコニコ。


「良かった〜。鼎ちゃん、器用に食べるよね。食べにくくないの?」

「時と場合によっては食べやすくして貰っているから…。外食の時はめちゃくちゃ困るけどな。ハンバーガーはカットして貰ってる。がぶりつけないから」


ある程度食べたところで、逢坂はキッチンの冷蔵庫から何かを出した。

「デザート作っておいたけど、食べる?」
「逢坂お前…気合い入れすぎだろ」

御堂は冷めた反応。


「食べたい」

鼎は即答。御堂も食べることにした。彼女は甘いものが好きだ。
御堂は逢坂がナチュラルに「鼎ちゃん」と呼んでるのが気になったが。


デザートは豆花(トウファ)。台湾スイーツだ。
御堂は感心しながら食べる。鼎は気に入ったのか、黙々と食べている。


「よく凝ったもん作るよな〜。いつ作ったんだよ。今日はアジア系なのか」

「和希、これは昨夜のうちに仕込んでおいたのさ〜。トッピングは先に作っておいたんだ〜。そのカボチャの白玉、手間かけたのよ〜」


逢坂の料理に対する熱量は半端ない。しかし、この人…何の仕事をしているのかは住人ですら謎である。

彼は鼎が来るとわかるや、デザートのトッピングを小さく食べやすくしていた。白玉を小さめにしてるのは鼎への気遣いだ。


帰り際。
「ごちそうさまでした」

「鼎ちゃん、また来てね〜。いつでもウェルカムよ〜ん」
逢坂はわざわざ見送ってくれた。御堂は鼎を車で送ることに。


車内での何気ない会話。


「逢坂は変わってはいるがいい人だな。また行くからな」
「おうちデートは俺んち確定かよ…」

御堂はだるそうだが、鼎は彼を理解しているせいか気にしてない。


「なんだか落ち着くんだよ。あのシェアハウスの共同スペース。どこか人のぬくもりを感じる。温かいんだ」
「お前はあれからずっと独りだったもんなー…。やっぱりぬくもりが欲しいんだ」

「…あぁ。逢坂のキッチンでの立ち姿を見ると、亡き母を思い出してしまうんだ。もう、いないのに。あのリビングの雰囲気は亡き父を感じた」


鼎はキッチンに立つ逢坂に、亡き母の姿を重ねていたと知る。彼女の過去は壮絶なだけに御堂もわかってはいたが、シェアハウスに来る理由が重い…。


御堂は切り出した。

「そのうち2人でお前んとこの墓参り、行こうか。今年であの事件から13年経つんだよな…」
「傷は癒えないけどね。顔の大火傷の跡は消えないものだからな…。目のダメージを考えたら仮面は外せないよ」



やがて任命式当日。本部の講堂には新人隊員が集まっている。やっぱり今年は少ないようだが、女性隊員の比率が高い。

御堂と鼎は講堂の隅にいた。宇崎は鼎のことを考慮して、彼女のバックアップの隊員2名を配置。その隊員は彩音といちか。


任命式は穏やかに進行する。宇崎は祝辞をし、新人隊員を迎えた。
今年の本部配属隊員は10人。


鼎は何かを感じた。なんだろう、新たな怪人か!?
彼女は辺りを見渡す。何もない。だが…違和感がある。


九州にあるゼルフェノア宇宙局では異変を感知。


「偵察衛星より、空間の歪みを確認。解析入ります」

オペレーターの声。宇宙局司令・鴻(おおとり)は緊張した面持ちでメインモニターを凝視。
この空間の歪みが怪人出現に繋がらなければいいのだが…。



穏やかに任命式は終了。講堂から新人隊員達が次々出ていく。
そんな中、宇崎は宇宙局な鴻からある報告を受けた。


空間の歪み!?



鼎は本能的に本部の外に出ていた。御堂が追う。


「鼎、司令室戻れって!…どうした?」
「新人隊員を避難させろ」

「…えっ?」
「空間が歪んでいる。空を見ろ」
御堂は空を見上げた。なんだあれは!?


鼎は急いで司令室へ向かった。足早に。
本部がにわかに慌ただしくなる。


司令室に着いた鼎は席についた。

「室長、状況は?」
「宇宙局の報告では怪人の気配はないが、時空の歪みなのか異空間に通じる次元トンネル出現なのかはわからない。
いつでも出撃出来るように指示出しといて」

「了解」


そして、本部にアラートが鳴った。あの空間の歪みは怪人出現のフラグだったのだ。
怪人はいつ出現するかなんて誰にもわからない。


鼎は本部各部署に指示を出す。

「御堂!怪人が出現した。精鋭数名を出してくれ!
解析班は出現した怪人の分析を!それと同時にシールドシステムを起動させる!市民に避難指示を!被害を最小限に食い止める!!」


鼎は確実に腕を上げていた。以前よりも冷静に、的確になっている。


御堂は出撃前に司令室に寄った。

「そいじゃ、行ってくるわ」
「必ず帰ってこい。約束だ」


鼎と御堂は互いに拳を軽くコツンと合わせた。これは2人の信頼の合図。

御堂は無愛想に本部を出たが、鼎のことを思っていた。また鼎もモニターに映る御堂を気にしてる。
いつの間にか相思相愛になる2人。


彼らはまた、怪人と戦う。

特務機関ゼルフェノアは今日もまた、戦い続けてる。





―完―